不動産投資でも注目されている「デジタル証券」とは

2022.07.14

 投資業界では今、「デジタル証券」が注目されています。「デジタル証券」とは従来、紙などに記録されていた株式や債券などの投資商品を、デジタル証票であるトークンに記録するものでST(Security Token=セキュリティ・トークン)とも呼ばれます。大手証券会社は既にデジタル証券の発行を始めており、専門の取引所も設立に向けてスタートしました。デジタル証券にはどのような特徴があり、普及すると投資市場にどのような変化がもたらされるのでしょうか?

今までと同じ信用性のあるデジタル取引

 デジタル証券は、トークン(デジタル化された暗号資産の一種)に対して「有価証券とみなされる権利」を電子的に発行するものです。簡単にコピーされたり改竄されたりしないために、ブロックチェーン技術(分散化台帳)を用います。ブロックチェーンは、取引を記録する技術として生まれたネットワーク上のデータベースのことです。参加者が情報を共有することによって改竄を不可能とし、障害も発生しづらいという特徴をもっており、仮想通貨やNFT(非代替性トークン)など様々な分野で活用されています。これまで、日本にデジタル証券を規定する法律はありませんでしたが、2020年に施行された改正金融商品取引法で正式に認められ、取引が解禁されました。規制やルールがなく、詐欺的な商品も生まれてしまったICO(仮想通貨)への反省から、金商法関連の規制に準拠し、取引は内閣総理大臣の申請・登録を行った金融商品取引業者(証券会社)が行うこと、と規定されたのが特色です。従来の証券と同様の信用性をもち、かつ気軽に取り引きできるインターネット上の投資手段として今注目されています。

デジタル証券のメリットとは?

 さて、デジタル証券と従来の有価証券には、どのような違いがあるのでしょうか? 証券の内容や保有者の権利等が記録される媒体が、従来の紙(もしくは代替として電子化されたデータ)からトークンとなるだけでなく、他にも違いがあります。

 たとえば、証券を管理する場所。従来、日本全国で流通する株券は「証券保管振替機構」で一括管理されていました。それに対してデジタル証券は、前述のブロックチェーンで管理されます。特定の機関でなく、仕組みそのもので管理するところが最大の特徴です。また、流通方法も異なります。従来の株式は「証券取引所」で取り引きされていましたが、デジタル証券はインターネット上の「デジタル証券取引所」と呼ばれる所で取り引きされます。これまでの証券でも、2010年代に入ってからペーパーレス化が進み、インターネット上でも当たり前に取り引きされるようになりましたが、管理・流通する場所は紙証券の時代と同様でした。デジタル証券は、価値を付与する仕組みそのものが全く異なり、そのために従来の証券とは異なる様々なメリットが生まれるのです。

 投資家にとっての代表的なメリットは、取り引きに時間の制限がなくなることでしょう。デジタル証券ではブロックチェーンで取り引きを管理し、有人の証券取引所も必要ないため、24時間365日、好きな時間に取り引きできます。投資家が投資に費やす時間が長くなることは、証券会社にとっても顧客との接触機会が増え、大きなメリットになるはずです。

 投資コストを大幅に削減できる点も見逃せません。これまで膨大な人的・時間的エネルギーを使っていた、証券の発行や配当の支払い、決済などの業務がデジタル証券では自動化されるため、手数料などのコストが劇的に少なくなります。このことが意味するのは、投資家への配当が実質的に増えることだけではありません。従来の証券では成立しなかったような小口の取り引きを可能にする……という、メリットも見逃せません。取り引きに多くの時間と労力を必要としていた従来の証券には、高額(大口)な取引しか成立しなくいというウィークポイントがありました。一方で、デジタル証券は管理・流通などのコストが小さいため、比較的少額(小口)な取引も成立しやすくなります。投資対象となる資産を多数の持分権に分割する「小口化」も、従来の証券以上に活発になるでしょう。顧客側にとって投資へのハードルが大きく下がり、従来は投資できなかった高額の資産にも投資できるようなる、という恩恵は図り知れません。投資家層が増えることは、証券会社にとっても甚大なメリットになることでしょう。

 また、投資を募る企業側にもメリットがあります。従来、株式を発行して資金を集めるには、取引所に上場する必要がありました。事業実績のないベンチャー企業などは認められず、必要な資金を調達するのに大変苦労していましたが、デジタル証券では資金調達の手段が大幅に増えると期待されています。デジタル証券には企業でなく事業に投資する「プロジェクトファイナンス」という考え方があるからです。会社の規模は小さくても、投資家にとって魅力的な事業であれば資金調達が可能に……。このように、デジタル証券のメリットを挙げると枚挙に暇がありません。

不動産投資でもデジタル証券による取引がスタート

 デジタル証券の本格稼働に向けて、大手証券会社は既に動き始めています。SBI証券は2021年4月にデジタル型の社債を発行。同年6月には、東京都内の住宅を裏付けとするデジタル証券も販売開始し、完売に至りました。また、不動産資産ファンド運用国内大手のケネディクスは2021年7月、都内のマンションを裏付け資産としたデジタル証券を発行、販売は野村証券とSBI証券が担当しています。さらに、三井物産デジタル・アセットマネジメントも倉庫など物流施設や学生向け賃貸住宅を裏付け資産としたデジタル証券を発行するなど、各社とも積極的な動きを見せています。こうした事実からも分かるように、小口化しやすいデジタル証券は株式や債券などの金融投資だけでなく、不動産投資とも相性が良いのです。

 デジタル証券を発行する金融プラットフォームについても、野村ホールディングスやSBIホールディングス、みずほ証券が出資する「BOOSTRY(ブーストリー)」、三菱UFJ信託が提供する「Progmat(プログマ)」など基盤整備が進みました。ただ、現状では複数の発行基盤がそれぞれ独立して運用されているため、今後はプラットフォーム間の連携がデジタル証券普及の鍵になると言われています。

 デジタル証券化により、顧客にとっても企業にとっても投資に対するハードルが下がるのは歓迎すべきことでしょう。眠っている金融資産を呼び起こし、運用を促すために景気浮揚につながるとも期待されています。ただし、デジタル証券も投資の一種である以上、メリットもあれば相応のリスクもある点は従来と何ら変わりません。投資家が経済動向や投資に対する知識を蓄えることは、デジタル証券を取り引きする上でもますます重要になってくるでしょう。

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最終更新日:2022.07.14

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