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6年で7倍超「サービス付き高齢者向け住宅」が注目される理由

2018.05.30

 国際連合や世界保健機関(WHO)では、全人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合が21%を越えた社会(国)を「超高齢社会」と定義しています。日本で高齢者の割合が21%を超えたのは2007年、超高齢化社会となってすでに10年以上の月日が流れているのです。

 そして団塊世代が70代を迎えようとしている今、経済社会や医療など多方面で高齢者の動向はますます無視できなくなっています。例えば、高齢者の住まいもその一つです。かつては現役時代に購入したマイホームに生涯住み続けるのが一般的でしたが、最近ではリタイア後に現役時代の広すぎる家から賃貸物件への住み替えを選ぶ人も増えています。

 中でも、リタイア後の住まいとして注目を浴びているのが「サービス付き高齢者向け住宅」。文字通り高齢者向け施設の一種ですが、2011年12月の全国約3千戸から2018年4月には23万戸強と急増しています。なぜ今、この施設の需要が高まっているのでしょうか? 背景にある国策を読み解くことで、その理由と今後の不動産市場におけるヒントが見えてきそうです。

(出典:サービス付き高齢者向け住宅 情報提供システムHP 「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況(H30.4末時点)」より作成)

国を挙げて推進する、サービス付き高齢者向け住宅とは

 「サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)」とは、介護が不要な高齢者のための住宅のことで、「サ高住」、「サ付き」などと略されることもあります。食事や入浴、排泄など生活に関わる全てのサポート体制が整っている有料老人ホームと違い、サ高住で義務付けられているのは、「安否の確認」と「生活相談」のみです。

 また有料老人ホームのようにまとまった入居金は不要で、サ高住への入居希望者は一般的な賃貸契約を結ぶことになります。入居後も基本的な生活は一般的な賃貸物件と同じで、外泊に許可が必要など細かな決まりごとはありません。つまりサ高住は介護を受けるための施設ではなく、独立して自由な生活を送りつつ、安心して暮らせる「住宅」なのです。

 サ高住の運営は民間事業者、医療法人、社会福祉法人等が行ないますが、特別養護老人ホームなど公的な介護施設が不足している事情もあり、国が設置や入居者の増加をバックアップしています。まず2011年10月に、国土交通省・厚生労働省管轄で「高齢者の居住安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」を改正し、サ高住に関わる制度や環境を整えました。

 サ高住の新築や取得には、固定資産税や不動産取得税等の減税といった優遇措置を行なっています。入居者希望者向けにも専用WEBサイト「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」を用意するといった手厚いサポートぶりを見ても、国がサ高住普及を急ピッチで進めようとしていることがよく分かります。

時代の先をゆく物件活用

 国の後押しを受けて普及が進むサ高住は、入居を希望する高齢者だけでなく、今後の入居ニーズに不安を抱えている不動産事業者からも熱視線が注がれています。特に人口減少が進み、空き家問題が大きくなっている地方部では、サ高住普及に早くから取り組んでいるところも少なくありません。

 東京都、愛知県、大阪府といった人口の多い大都市でサ高住の戸数が多いのは当然とも言えますが、北海道や茨城県、三重県、愛媛県、長崎県などでサ高住の数が伸びています。

(出典:サービス付き高齢者向け住宅 情報提供システムHP 「サービス付き高齢者向け住宅の都道府県別登録状況(H30.4末時点)」より作成)

 人口減少に加えて高齢世帯が急増する地方部で、「安否の確認」と「生活相談」サービスが受けられ、住み慣れた土地に住み続けられる自由度の高い住宅の需要は、今後も高まると考えられるのではないでしょうか? また、住宅を提供する側にとっても「安否の確認」と「生活相談」サービスは、孤独死や入居中のトラブルを最小限に抑えられる強力なツールとなります。

 いまや大和ハウスグループや積水ハウスグループといった大手住宅総合メーカーだけでなく、パナソニックや小田急電鉄、京王電鉄のように、すぐには介護事業のイメージが湧かない企業もサ高住を展開しています。多方面からの注目を集めるサ高住ですが、不動産投資目線、空室対策といった視点からも熱い視線が注がれています。

 例えば、投資用不動産販売で有名なシノケングループも早い段階で高齢者向け住宅の有用性に着目しています。同グループは、管理物件の空室をリノベーションして高齢者向けサービスを提供するというビジネスモデルで2013年度のグッドデザイン賞を受賞しています。

 高齢者向け住宅の企画・開発は土地活用の一種ですが、住みたい高齢者、不動産オーナー、不動産会社にとってもwin–win–winの取り組みであり、時代を見据えた入居施策と言えるでしょう。

 繰り返しになりますが、日本では今後、人口減少や地方の過疎化、超高齢社会の加速という社会構造の大きな変化は避けられません。不動産投資においても、これらの変化に柔軟に対応していくことが大切になります。

 一方で不動産は土地の取得から建築、物件の引き渡しまでにある程度の時間を要します。つまり、時代の流れをいかに早く見越して先手を打てるかが、事業の安定性を左右すると言えるでしょう。そうした意味では、時代や国策の変化に常にアンテナを張り、物件を活かすためのノウハウをいくつも持っている不動産会社をパートナーに選びたいですね。

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最終更新日:2018.05.30

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