資産運用

2020年に30兆円、今注目の「不動産投資ファンド」を知る

2018.04.26

 不動産投資と言えば、不動産を取得してそこから賃料や売却益を得るというイメージがあるのではないでしょうか? しかし今、不動産そのものではなく、不動産の価値を裏付けにした商品への投資に注目が集まっています。

 事実、国土交通省 「不動産証券化の実態調査」によると、不動産を対象とした投資商品は増加傾向にあります。

証券化の対象不動産の取得実績の推移 (出典:国土交通省「平成28年度 『不動産証券化の実態調査』の結果」より作成)

 実は日本の不動産に注目しているのは、国内の個人投資家だけではありません。とりわけ2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されている首都圏の不動産市場には、世界や大きな資金力を持つ“組織”からも熱いまなざしが注がれています。

 2015年、北欧の高福祉国家として知られるノルウェーの政府年金基金が、年金資金の運用先として東京のオフィスビルに6000億円超の投資をする意向を発表し、経済界で話題になりました。

 この動きに追随するように、日本でも2017年、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、年金資金の一部を国内不動産で運用することを決めます。

 現在の年金運用ルールでは、不動産などへの投資は全運用資産の5%以内と定められていますが、年金の運用資産額は約162兆6,723億円と莫大な額です(平成29年度第3四半期末現在。年金積立金管理運用独立行政法人HP「最新の運用状況ハイライト」より)。

 162兆円の5%は8.1兆円。その全てが国内不動産に投資されるわけではないにしても、巨額の資金が今後、不動産市場に流入していくことが予想されています。

 さらに、2017年12月1日には不動産投資に関わる法律の一つである「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律(平成29年法律第46号/以下、改正不動産特定共同事業法)」が施行されました。

 改正不動産特定共同事業法では、空き家・空き店舗問題の解決、観光や物流業界の成長を目指した環境整備と投資家保護、不動産投資の規制緩和が盛り込まれています。

少ないリスクと成長性が魅力の不動産ファンド

 国民の大切な年金資金の運用先として不動産投資が選ばれたり、国が成長戦略の鍵として不動産関連の法整備を進めるなど、不動産投資に力を入れるのにはわけがあります。

 一つ目は経済の活性化です。不動産価格と経済成長に正の相関関係があるのはよく知られていますが、不動産価格が上昇すればその資金が新たな投資に向かい、経済成長を促す効果があります。二つ目は長らく続く低金利時代の中、比較的低リスクで安定的な運用先として不動産投資が選ばれているのです。

成長戦略の鍵として、国も不動産投資に力を入れている

 特に冒頭で触れたように、不動産の価値を裏付けにした商品、「不動産ファンド」への期待が高まっています。不動産ファンドとは、複数の投資家から資金を集めて不動産投資を行い、それによって得られた収益を出資比率に応じて投資家に分配する仕組みのことを言います。

 不動産ファンドに投資するメリットは、一般的な不動産投資に比べると多額の資金が必要でない、もしくは資金に応じた投資ができること、災害や空室による不動産価値や収益率の低下など不動産を所有することで発生するリスクが軽減されることです。デメリットは収益を投資家で分配する上、投資家の管理コストがかかるため、収益率が小さくなる可能性があることでしょう。

 不動産ファンドには主に、「不動産特定共同事業」と「REIT(リート。以下REIT)」の2種類に分けられます。不動産特定共同事業は複数の投資家から集めた資金で不動産を取得し、収益を出資額の割合に応じて出資者に分配する方法です。基本的に契約時に利回りが予想できるため長期的な運用に向いていますが、取得した不動産の新たな買い手が見つからなければ売れないので流動性は低くなります。

 REITも複数の投資家から集めた資金で不動産投資を行い、その収益を投資家に分配する仕組みは同じですが、仕組みを証券化して上場しているという点と、日々価格が変わるという点が違います。株式や投資信託のように市場で自由に売買できるので、流動性は高いです。

 国はREITの成長を目指しており、2017年6月には国土交通省土地・建設産業局から「不動産投資市場の成長に向けたアクションプラン」が発表されました。

 アクションプランでは具体的に、企業不動産やREIT市場、不動産投資家の投資環境の改革、それらを実現させるための人材育成について触れられています。既出の改正不動産特定共同事業法の施行はその一つであり、国がいかに本気で不動産市場を活性化させようとしているかがわかります。

 さらにプランの中では、「2020年頃までにリート等の資産総額を約30兆円に倍増する」と明確な数字を打ち出しており、年金資金に加えて産業界、金融界の資金が不動産投資市場へ流れ込むことを狙っていると言えるでしょう。

需要と時流から誕生、国内初のアパートファンド

 こうした国を挙げた取り組みに先駆けて、シノケングループでは既に資産運用会社「シノケンアセツトマネジメント」を立ち上げ、自社の物件に投資するファンドを3月下旬に開始しました。

 約3万戸に及ぶ個人向けアパート販売事業や管理事業、電気やガスの供給といったエネルギー事業など、不動産に関連する事業を一貫して手掛けてきたノウハウを集結した、国内初の機関投資家向けアパートファンドです。

 投資対象は東京23区内で展開する木造賃貸アパート「ハーモニーテラス」で、ファンドの総額は約30億円、内部収益率は年7%を見込んでいます

 このアパートファンドは、事業の一層の安定と成長はもちろん、マイナス金利のため資金の運用環境が悪化する中、機関投資家や事業会社からの出資ニーズに応えるために誕生しました。将来的には、需要の大きい個人向けの小口ファンドや不動産担保型のローンファンドなど、毎年30億~50億円規模のファンドを組成していく予定です。

 不動産投資を行う際には不動産価格や利回りだけでなく、国の施策や経済界全体の流れを押さえておくことも重要になります。この1年で急速に進んだ年金資金運用先の変更や法律の改正は、時流を掴む重要な指標です。

 不動産市場と経済全体、それぞれの情報をバランスよく取り入れて、不動産投資を進めていきたいですね。

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最終更新日:2018.04.26

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