
「広さよりも利便性」都心部で狭小物件が増えている理由
東京近郊で生活する人の間では、都心部は“仕事のために通う場所”であり、住む場所は安くて広い郊外というイメージが定着していました。しかし、近年では“仕事も住む場所も都心部”という人が増えつつあります。
職場も住居も都心部を希望する人が増えるに従って注目されているのが、15坪ほどの小さな土地に建てられた狭小住宅や、1部屋あたり10平米ほどの賃貸物件です。お世辞にも大きいとは言えない狭小住宅が人気となっている裏には、時代の流れによる価値観や社会構造の変化が隠れています。
価値観と利便性、2つの需要を取り込む狭小物件
現代では生活に必要な物が十分に供給され、むしろ物や情報であふれ返っています。こうした中で、“断捨離”や“ミニマリスト”という言葉の流行に代表されるような、シンプルな生き方を良しとする価値観が誕生しました。
また、女性の社会進出や経済不安などから共働き世帯が増え、住む場所に利便性を求める人も増えています。家で過ごす時間が短いので、家の広さよりも通勤や買い物など普段の生活が便利な方が重要であり、これらのニーズに合致したのが狭小物件です。
狭小物件には狭くて小さいが故のメリットがたくさんあります。例えば、光熱費が抑えられること、掃除の手間が少ないことも忙しい現代人にとっては重要です。空間をうまく生かしたシンプルでデザイン性の高い物件が多いのも、狭小物件ならではの魅力と言えます。
さらに狭小物件だからこそ、通勤や通学、買い物に便利な都心部に住むことができ、交通費や時間の節約、満員電車によるストレスの軽減にもつながります。交通インフラが整っているので車を持つ必要もなく、特に地方から出てきた人にとって、税金や駐車場代、メンテナンス費など、車の維持費がかからないことのインパクトは大きいです。
狭小物件は所有することにもメリットがあります。まず、土地代や登記費用、固定資産税、都市計画税、管理費用など、土地や物件の取得や維持にかかる費用が安いことです。
最近では、競合との差別化のためにインターネットの無料Wi-Fiサービスを標準装備する賃貸物件も増えていますが、狭小物件だと設置費用や維持費も抑えられ、かつ速度も出やすいので住人へのアピールポイントになります。交通の利便性が高いので、内覧や管理がしやすいのもメリットです。
増え続ける単身世帯が駅近需要を高める
狭小物件の中でも特に需要が高くなっているのが駅近物件ですが、その背景にあるのが単身世帯の増加です。

また、平成27年国税調査より一世帯あたりの世帯員数の全国平均値である2.33を下回っている都道府県を一部抜粋すると、北海道2.13、東京都1.99、神奈川県2.26、京都府2.22、大阪府2.22、高知県2.20、福岡県2.26、鹿児島県2.20など、大都市と地方と二極化していることがわかります。世帯員数の減少は高齢化の進行が原因と推測されますが、単身世帯が高齢者世帯かというと、必ずしもそうではありません。
単身世帯のピークは男性が25〜29歳(29.3%)で、20〜24歳(28.9%)、30〜34歳(20.8%)と続きます。女性は一般的に配偶者に先立たれることが多いため、80〜84歳(28.2%)と75〜79歳(24.4%)で高い割合を示すものの、20〜24歳(22.5%)、25〜29歳(19.8%)、30〜34歳(12.9%)と、男女いずれも20〜30代前半にかけて一人暮らしをしている人は多いと言えます。
年齢に関わらず、単身者は基本的に身の回りのことを全て自分でしなければなりませんが、裏を返せば自分のライフスタイルを最優先できます。気兼ねなく自分が便利に暮らせることを追求できるとなれば、日々の通勤や通学がしやすく、買い物やいざという時の通院にも困らない、駅近に住みたいと考えるのは自然な流れではないでしょうか。
今後、少子高齢化は一層進んでいくと予想されており、仕事を見つけることが難しくなった地方の若者は、雇用を求めてますます都市部に集まってくるでしょう。

(出典:2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)より作成) (参考:総務省『平成28年版 情報通信白書』)
さらに根強く残っていた下町風情など、都内の各エリアごとのブランドイメージも格差がなくなってきており、都心であるということそのものが一種のブランドになっていく可能性もあります。
これからの物件選びは、少子高齢化と人々の価値観や社会構造が変化していることに着目した長期的な見通しを立てることが大切です。エリアだけでなく、駅近であることや利便性の高さをいかに住人目線で判断できるかが、戦略の鍵を握るのではないでしょうか。