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人はなぜ都心に住むのか?

2017.10.18

 アメリカのカリフォルニア州、サンフランシスコ・ベイエリアのシリコンバレーは、GoogleやFacebookなど多くのIT企業が集う有名エリアです。エンジニアや起業家を志す人たちにとって、まさに夢がつまっている場所とも言えます。一方で所得格差が激しくなりすぎ、家賃の高騰などが問題となり、ホームレスも増加傾向と言われています。

 日本でも、同じように東京への人口集中が問題視されています。「東京都の人口(推計)」によると、2017年(平成29年)8月1日現在、1373万5582人です。2015年は約1350万人、2016年は約1362万人と年々10万人ずつ増えています。

 

 東京都23区と同程度の面積を持つシンガポールの人口は外務省によると2016年6月の段階で約561万人で、半分以下です。東京都の人口の集中具合がわかるでしょう。さらに、東京都を働く場所として考えた場合、埼玉県や千葉県、神奈川県などの広域圏も視野に入れて計算するとなると、人口の東京周辺に対する比重は尋常ではありません。

 この理由の一つは「人気エリアでも「駅までバス物件」に未来がない理由」でも書いた通り、日本人の都心志向が非常に強くなっているからです。夫婦でも、昔と比べて共働きが増え、利便性を重視する結果、都心へ住む人達が増えています

 しかし、もう一つ、大きな理由があると言えます。それは、「都心」に行くことで年収が上がる傾向にあるからです。

年収は「住むところ」で決まるという発想

 『年収は「住むところ」で決まる——雇用とイノベーションの都市経済学』(エンリコ・モレッティ著/プレジデント社)に、次のように書かれています。

 経済を構成する要素は互いに深く結びついているので、人的資本(技能や知識)に恵まれている働き手にとって好ましい材料は、同じ土地の人的資本に恵まれない人たちにも好ましい影響を及ぼす場合が多い。

 

 そして著者は、イノベーション産業や1人の科学者がその土地にいることで、多くの雇用が生まれ、発展していくと話します。つまり、いくらネットが進化しようが、優れた人たちは一つのところに集まり、さらにイノベーションを起こすようになる——彼らは高い報酬を受け取るようになり、彼らを相手にしたサービス産業や飲食業、不動産業などもますます栄えるようになるという好循環を生み出すというわけです。

 仕事が存在すれば、人は集まります。例えば美容師やタクシー運転手などもです。優秀な人材が集まるところには、地域レベルのサービス業で働く人たちにとっても魅力的であり、イノベーション産業が興れば、様々な形で雇用が増大するのです。しかも、年収の高い人たちに、優れたサービスを提供できる人は、彼自身の年収も引き上げます。例えば、飲食店のスタッフの時給や、美容師に支払うお金の差を考えればわかりやすいのではないでしょうか?

 冒頭に挙げたシリコンバレーなどは、そのいい例といってもいいでしょう。東京もまた、大小様々、多くの企業が存在し、新しい仕事が生まれ続けています。

 都心に住むということは、利便性だけではなく、収益性も期待できるということです。

街の個性を都心が多く持つ強さ

 人が集まれば、その「場所=トポス」に物語性が生まれていきます。例えば、シリコンバレーならIT、ハリウッドなら映画といったような具合です。東京でも同様で、渋谷なら若者のカルチャー、クリエイティブのイメージ。下北沢は演劇や音楽の街、丸の内はビジネス街……多くの人が共通のイメージを持つはずです。

それぞれの街が持つイメージが人気につながる

 こうした場所についてイメージしやすいことは、「場所=トポス」としての魅力を多く持っているともいえます。

 マーケティング用語で「純粋想起」という言葉があります。これは、製品カテゴリーなどの手がかりを与えられたとき、特定のブランドを思い起こせることです。例えば「ビールなら何を浮かべるか」と聞かれたときに特定のブランド名を再生できる状態を指します。

 ITの街といえば、世界的に多くの人がシリコンバレーを純粋想起するでしょう。こうした街には、人が集まりやすいのです。なぜなら、純粋想起の記憶の程度は強く、生活者の行動に影響を与えやすいからです。「いつかは●●に住みたい」と思っている人が多くいるエリアは、いずれその人たちを、そこへ近づけようとするのです。

 不動産投資やアパート経営でも、都心への志向であることや、純粋想起される街を意識すべきでしょう。都心への志向は、東京に限らず、名古屋や大阪、福岡など広く都市圏に言えることです。聞いたことのない街よりも、純粋想起できる街やその周辺エリアを投資先として考える立地戦略は、何よりも大切といえるでしょう。

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最終更新日:2017.10.18

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