ライフスタイル

高齢者ターゲットの「住宅」ビジネス

2017.09.29

 『ライフ・シフト』(リンダ・グラットン著/東洋経済新報社)が人気を集めています。本書は寿命が100年時代になると説いたもので、80歳程度の平均寿命を前提に「教育」「仕事」「引退」の3段階で考えられてきたライフコースは抜本的に見直す必要があるといいます。

 日本人の平均寿命は厚生労働省の7月27日発表の調査によると、2016年の段階で女性87.14歳、男性80.98歳。過去最高を更新しました。同省によると、2016年生まれの平均寿命は、女性で5.74歳、男性で6.95歳延びるとも推定しています。つまり、今後も平均寿命は延び続けていくというわけです。いま、仕事をしたり生活をしたりしている私たちの平均寿命も延びている上に、医療などの進歩が進めば、多くの人が100歳を迎えるということもありえそうです。

内閣府「 平成28年版高齢社会白書(全体版)1 高齢化の現状と将来像」より作成

日本は高齢者が増加傾向

 世界的に先進諸国が長寿化となっていくなか、高齢者が増加傾向なのが日本です。総務省統計局によると、65歳以上の高齢者人口の割合は1950年(昭和25年)には4.9%となっていましたが、1955年(昭和30年)には5.3%と増加し、2016年(平成28年)9月15日現在の推計では、65歳以上の高齢者人口は3,461万人で、総人口に占める割合は27.3%となっています。

日本人が本当に考えないといけない2022年問題」でも書いた通り、日本で最も人口の多いいわゆる「団塊の世代」も高齢者。そして2022年ごろには後期高齢者となります。

「団塊の世代」という大きな母数をビジネスに成長してきたのが、日本の多くの企業です。不動産デベロッパーは郊外の一戸建てを売り、自動車会社は自動車を売る——。そして今この巨大な団塊の世代をターゲットにしてさまざまなビジネスが生まれているのがシニアビジネスです。

母数が大きい「団塊の世代」を顧客にせよ

 訪問介護や、施設介護、福祉用具レンタル、バリアフリー改修など介護関連ビジネスは高齢者増加傾向の日本にとっては成長産業ともいえます。とはいえ、介護関連職種の低賃金などが社会問題になるなど、バブルの様相は消え、落ち着いてきた印象です。

 一方で、盛り上がりを見せているのが、サービス付き高齢者向け住宅、略して「サ高住」です。2011年10月に制度化された高齢者住宅制度のことで、国土交通省と厚生労働省が共同で所管しています。登録状況の推移は2013年3月(平成25年)が3,000棟程度だったのに対し、わずか3年で6,102棟(2016年3月)と倍になり、その後も伸び続けています。

一般社団法人 高齢者住宅推進機構「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況(平成29年8月末時点)」より作成

 サービス付き高齢者向け住宅はこれまでの介護施設などとは異なり「賃貸住宅」です。その入居資格や入居関連費用に介護保険制度は関わりません。介護を受けていない元気な高齢者までもがターゲットになるので、従来型の介護ビジネスと比べるとその市場規模はかなり大きいと言えるでしょう。

『人口減少傾向でも、世帯数は増加』がビジネスの鍵になる」でも書いたとおり、高齢者世帯は2016年現在、1327万1000世帯(全世帯の26.6%)も占めており、増加傾向です。巨大なマーケットが眠っており、今後も拡大していくと考えられます。

 メットライフ生命の情報サイト「#老後を変える」で、徳島県神山町のNPO法人グリーンバレーの理事長・大南信也理事長は、「60代である自分自身も、やることがたくさんあり、忙しく感じています」と話しています。

 徳島県神山町のグリーンバレーといえば、創造的な地域づくりで日本だけでなく世界からも注目を集めているエリアです。

 過疎の町だった神山町を世界中からアーティストを招聘し、認知度をあげるばかりか、全町に張り巡らされた光ファイバー網を活用したITベンチャー企業のサテライトオフィス誘致を実施するなど、多様な交流と新たなサービスを生み出し続けている地です。

 その仕掛け人である大南さん、同サイトのインタビューで「敬老の日」に祝福されるのは「嬉しくない!」とも話しています。元気なシニアは、無数にいて、冒頭の『ライフ・シフト』で考えれば60代はまだ若いということになります。「寿命はこれくらい」というマインドセットをいったんリセットし、ビジネスを考える時期にきているといえるのではないでしょうか。

 たとえば、アパート経営・不動産投資のシノケンは、同グループ内にシノケンウェルネスなど介護関連事業の統括やサービス付き高齢者向け住宅の運営などを行う会社を持っています。さらに、既存のアパートを高齢者向けに提供し、24時間365日対応のサービスがついた「寿らいふプラン」なども開発。グッドデザイン賞も受賞しています。

 日本は人口が減少傾向だし……と思うかもしれませんが、こうしたシニア層に向けたビジネスはこれからも活発化していくことが予想されます。こうした社会的背景をとらえているかどうかも、会社を評価するポイントといえるかもしれません。

Editor:
最終更新日:2017.09.29

おすすめ記事