制度・税制

「北千住」が3年連続1位で注目集める本当の理由

2017.09.28

 リクルート住まいカンパニーが発表した「2017年版 SUUMO住みたい街ランキング 関東版」で<穴場だと思う街(駅)ランキング>を3年連続、圧倒的スコアで1位なのが足立区の「北千住」です。さらに、長谷工アーベストがまとめた「住みたい街(駅)ランキング」では、首都圏総合ランキングで北千住が29位から8位に急上昇しています。“穴場”どころか“住みたい街”でなんと8位です。

長谷工アーベスト 「住みたい街(駅)ランキング2017」より作成

 北千住のある足立区といえば「ヤンキーが多い」「治安が悪そう」といったイメージを持っている方も多いはず。そのため意外と感じる方もいるのではないでしょうか。事実、足立区の刑法犯認知件数(犯罪件数)は2017年の7月末時点で3,930件と「都内最多」(※1)です。

 一方、『23区格差』(池田利道著/中公新書ラクレ)によると、夫婦全体に占める10代の妻の割合も、夫婦とも10代の割合も23区で足立区が一番多いといいます。24歳以下の女性に占める有配偶者の割合は6%と首位。この数値をみると「ヤンママ」が多く、若い夫婦にとって住みやすい街とも言えるので、先述のイメージとは少し実態が違ってきているのかもしれません。

※1 2017年9月12日現在 足立区ホームページより

圧倒的な交通の利便性は他を退ける魅力

 江戸時代から宿場町として発展してきた千住地区。その隅田川北側エリアが北千住です。北千住にはJR常磐線、東京メトロ日比谷線、千代田線、東武スカイツリーライン、つくばエクスプレス線と5路線が乗り入れています。駅前は密集市街地として発展してきました。

 しかし、1987年に西口の街並み整理の都市開発計画が持ち上がり、2000年代になると集合住宅・店舗・オフィスなどを構える「千住ミルディス」が開業します。2005年にはつくばエクスプレスが乗り入れることになり、2008年には東口地区開発計画が発表されました。

2008年開業の「千住ミルディス」

 この計画により、2008年に東京電機大学の進出が決定し、東口の再開発もはじまります。治安最悪だった足立区に、学術都市計画というわけです。東京電機大学は2012年に完成し、区画街路の整備なども行われます。

 ここにきて、足立区の中でも北千住はとても治安の良い街へ成長しました。

 今や駅前の賃貸住宅には学生や単身者が住み、少し離れたところには高層マンションが建ち並びファミリーが過ごす場へ。徒歩圏内に多くの商店や量販店もあり買い物も便利、昭和レトロの雰囲気が楽しい街を散歩することもできます。交通の利便性はいわずもがな。「北千住」が注目を集めるのを見るにつけ、利便性の高さは、住む人々にとって代えがたいことがよくわかります。

利便性に加え「センシュアス・シティ」という考え方

「生活の利便性」こそ、人をそこに住みたいと思わせる最大の魅力であることは疑いようがありませんが、「北千住」はもう一つの要素を持っているといえます。それは、このエリアが官能的(センシュアス)であるということです。

 HOME’S総研が2015年9月に発表した『Sensuous City[官能都市]——身体で経験する都市:センシュアス・シティ・ランキング』と題された調査レポートがあります。これは、住みたい場所を利便性などの定量ではなく、

1.「共同体に帰属している」(地元と思えるなど)
2.「匿名性がある」(1人だけの時間を過ごせるかなど)
3.「ロマンスがある」(デートをした、路上でキスしたなど)
4.「機会がある」(刺激的なイベントやパーティーに参加したなど)
5.「食文化が豊か」(庶民的な店でうまい料理やお酒を楽しんだなど)
6.「街を感じる」(街の風景をゆっくり眺めた、路上でパフォーマンスをしている人を見たなど)
7.「自然を感じる」(木陰で心地よい風を感じたなど)
8.「歩ける」(通りで遊ぶ子供たちの声を聞いたなど)

LIFULL HOME'S 総研 Sensuous City[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキングより

 

といった定性調査によって官能的な都市を見つけ出そうという試みです。

 残念ながら2015年の調査ということもあってか、北千住はあまりクローズアップされていませんが、今調査をすれば、北千住はスコアをあげているでしょう。というのも、北千住には、大学生たちが集まってきたことにより、おしゃれなカフェや居酒屋、お店などが増えて人気を集めている一方、昔から地元民に愛されてきた立ち飲み屋や豆腐屋さんなどの名店も数多く残っているのです。

 北千住を含めた千住地区は宿場地区として栄えてきましたが、祭りのようなイベントも活発でした。現在でも、年中行事が多く、街の魅力の一つとなっています。

 ユニークなのは、1815年、江戸飛脚宿の主人の還暦祝いで江戸と近郊から酒豪を招いて「大酒戦会」(飲み比べ)が行われたりもしていたこと。これは「千住の酒合戦」と呼ばれ、多くの文人や絵師が審査員として招かれ、後世に語り継がれるようになります。

酒合戦の様子を今に伝える木版「千住酒合戦」

 昭和レトロの街並みはもちろんですが、江戸から続くこの地で、新しい店と、古くからある店が入り交じり、老若男女が行き交う——まさにセンシュアス・シティと言えるのではないでしょうか。

 交通の利便性はもちろん、こうした街の魅力を探り、なぜ人を惹きつけるのかを調べてみる——その好奇心が不動産投資やアパート経営でも結果としてビジネスにつながっていくと言えそうです。

Editor:
最終更新日:2017.09.28

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