制度・税制

2022年、不動産暴落リスクは三大都市圏が高くなる

2017.09.26

 「生産緑地」という看板が立った農地を見たことがある人は多いのではないでしょうか。この土地は市街化区域(住宅地)にありながら、農地として扱われ、一般農地と同じように毎年の固定資産税や相続税で低い税額で維持できるようになっています。

 現行の生産緑地法が施行されたのが1992年。指定を受けた土地は、税制面の優遇を受ける代わりに、30年間に渡る営農義務を負うことになりました。この営農義務の期限が終了するのが2022年です。

 2022年、制度の期限が来ると、自治体に買い取りを申し出ることができるようになります。しかし、自治体は財政難からその土地を買い取れなかったとしたら? 生産緑地の所有者は、生産緑地の指定を解除し、宅地として売却する可能性が高まります。

 土地の大量供給が一気におきれば、需給バランスが崩れ、地価が大幅に下落することが想定されます。これが生産緑地における「2022年問題」なのです。

生産緑地の大半は大都市圏

 生産緑地はもともと三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の市街化区域を念頭に定められた規定のため、指定地区数、面積とも東京都が最も多いのです。具体的には東京都の生産緑地は、国土交通省の2015年(平成27年3月31日現在)の「平成27年都市計画現況調査」によると、3,296.4ヘクタールに及びます。

国土交通省「都市交通調査・都市計画調査 §2 都市計画区域、市街化区域、地域地区の決定状況(22)生産緑地地区」より作成

 東京都内で150ヘクタール以上の生産緑地を抱えているのは、以下のエリアです。

国土交通省「都市交通調査・都市計画調査 §2 都市計画区域、市街化区域、地域地区の決定状況(22)生産緑地地区」より作成

 市街化区域内農地の過去の転用状況はその多くが住宅用地となっています。このあたりは「大都市の郊外や地方都市で賃貸アパートが増え続ける理由」でも触れていますが、こうした生産緑地にも住宅が建つことになるわけです。

 生産緑地の広さは市街化区域内の1区画500平方メートル以上の土地というある程度まとまった土地。宅地業者やマンション開発事業者には魅力的な土地で、すでに多くの事業者が2022年を見据えて虎視眈々と狙っています。

 国土交通省もこの状況を座してみているわけではありません。2017年2月10日「都市緑地法等の一部を改正する法律案」と提出し、閣議決定されています。このなかの「都市農地の安全・活用」として生産緑地地区の一律500平方メートルの面積要件を市区町村が条例で300平方メートルを下限に引き下げられることや、生産緑地地区内に直売所やレストランなどを設置できるなどが盛り込まれています。

 同法案の背景として、国土交通省は次のように書いています。

国土交通省「都市緑地法等の一部を改正する法律案」より作成

生産緑地が宅地化されるとどうなるのか

 実際に生産緑地で農家をやっている人たちにとっても、課題は多くあります。たとえば1992年指定時に40代だった人は、2022年の段階で70代です。後継者がいなければ、農業は続けていけません。

 高齢化するにつれ、アパート経営に乗り出す農家の人は少なくありません。しかし、これまでと違って多くの生産緑地がアパート経営に乗り出すとどうなるでしょうか? 供給が増えることで、アパートの価値が下がります。以前からアパート経営に乗り出していた方にとっても、ダメージはでます。

 これまで、こうした土地を持っている人たちに向けてアパート経営を勧めるビジネスが主力だった企業は、今まさに大きな時限爆弾を抱えているともいえるでしょう。

 生産緑地周辺の住民にも影響が及びます。生産緑地が宅地化されると、近隣にすでに建っているアパートやマンション、戸建てなどの住宅で生産緑地で日照を確保できていると考えていても、今後はそれがなくなり、日照がなくなる可能性がでてきます。

 不動産投資やアパート経営を検討している人も、生産緑地があるエリアをターゲットで考えると、リスクが発生するおそれがあります。しかし、落ち着いて考えてみれば、こうした生産緑地が多くあるエリアは交通の利便性などが決して高いとは言えません。賃貸などで住む側の気持ちに立てば、駅から近い物件のほうがいいので、土地を持たずに不動産投資やアパート経営を行うのであれば、あえてこうした場所を選ぶ必要はないのかもしれません。もし不動産投資やアパート経営を始めるようであれば、このような事情を理解した上で、経営の課題やリスクについてもしっかりと説明してくれるような業者をパートナーとして選ぶべきでしょう。

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最終更新日:2017.09.26

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