
VALU炎上で見る資産づくりの下手な日本人
VALUというWeb上のサービスをご存じでしょうか? これは一言でいうと、個人が株(みたいなもの)を発行してみんなに買ってもらい、資金調達できるサービスです。サラリーマンなどが株式会社をつくり、株で資金を集めるというのは現実的ではありませんよね? 将来不安のため、収入を増やしたいと考える多くのサラリーマンは普段、会社で働きながら、できる範囲で株式投資をしたり、預貯金をしたりしているわけです。このVALUは、そんな会社員でも資金調達ができるばかりではなく、株式のように売買も可能にしています。使用する通貨は、ビットコインです。
このVALUをのぞいてみると、ネット上で名の知れた人や、まったく無名のような人まで様々な人がユーザーとして登録されています。やらなきゃ損だといわんばかりに多くのネット上の有名人がVALUを推してきて多くの人が参加するようになっていますが、8月に事件が起きました。
有名YouTuberの男性が自らVALUにユーザー登録し、自分の株式(VALUではこれをVAといいます)を発行しました。そして、仲間たちとあおるだけあおって多くのユーザーにVAを買わせ自分たちは売り抜けたのです(自分たちが保持するVAを高値で他のユーザーに売った)。
この結果、炎上となり、今ではサービスそのものの正当性についてなどネット上で議論が交わされるようになりました。「儲かる」と思って参加した人たちも、この炎上をきっかけにVALUについて深く考えるようになり、利用も慎重になっているようです。
ネットがリアルな産業に染み出してくる
インターネットのサービスは今やどんどんリアルな産業に染み出してきています。リアルな産業に染み出してくるということは、法規制など様々な面で整備がより強く求められるようになってきますが、新しいサービスの生まれるスピードと法律の整備が行われるスピードは、全速力の自動車と、子供のよちよち歩きほど違いがあります。
経済産業省などは、産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」を行っています。これは、事業に対する規制の適用の有無を事業者が照会できる制度で、自分たちの事業が法律上問題ないかを確認したりできるといったものです。
しかし、こうした制度をVALUのような会社が申請することは少ないのが現状です。同社はサービス開発にあたり金融庁には確認を取っているとのことですが、ユーザーがどんな利用をして、どんな行為が行われるのかは、なかなか想定しづらいでしょう。そういったユーザーの動きを一つひとつ想定し、検証していては新しいサービスとしてなかなか世に出すことはできません。特にVALUは、ドローンなど確実にリアルと連携しなければならないものではなく、あくまでネット上のサービス。消極的にならざるを得ないでしょう。
新しいサービスでお金を稼ぐことが出来る! そう思って多くの人々が手を出したVALUですが、一人のユーザーによってその穴をつかれ、多くの指摘が入ることで今後の展開は当初想定していたものとは大きく異なることになりそうです。
伝統的な資産づくりをもう一度見直す
将来不安による資産づくりは、多くの人の課題です。以前の記事でご紹介したように、金融広報中央委員会の調査では、老後の生活が「非常に心配である」と「多少心配である」という回答をあわせると84.5%にもなるのです。

(出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(2016年)より作成)
そして、その不安の理由としては「十分な金融資産がないから」というのが71.4%と最も高いのです。「金融資産」を増やすために、多くの人がVALUに興味を持ったのもうなずけそうです。特にネットを利用するユーザーは、ネットで簡単にできるサービスを魅力的に感じてしまいます。スマートフォンなどを使って簡単に投資ができる、などという話は多く、そして多くのユーザーはハードルが低いと感じます。
しかし、普段身近に使っているスマートフォンやネット上のサービスだからといって、リスクが低いわけではありません。VALUが、それを証明したといえるでしょう。むしろ、新しいサービスであればあるほど、こうした問題が発生することは多いのではないでしょうか? 新しいサービスに目を向けるばかりではなく、規制がしっかりできている古くからある資産づくりの手法に目を向けるのも1つの手です。
株式投資などと同じように古くから資産づくりで行われてきたのはアパート経営や不動産投資です。資産とは個人または法人の所有する金銭・土地・建物などの総称です。昔の文学作品などにも「資産家」などというものがよく登場します。サラリーマンであれば、普段働いている分の対価として給料があるわけですが、資産家の場合はその資産によって収入を得ます。例えば家賃であるとかです。お金を生み出すことのできるモノを持つことこそ、資産家といえるのではないでしょうか。
日本人は働くことにかけてはしっかりしていますし、なぜか給料を時給に換算したりして時間労働について考えることはあっても、資産づくりについてしっかりと考えられる人は少ないようです。海外と比較しても、資産づくりについて何かをしているかというアンケートで、「特に何もしていない」が4割もいるのは日本くらいです(アメリカ、ドイツ、スウェーデンは2割で、その差は2倍)。
身近なサービスだからという理由で安易に新しいサービスに飛びつくのではなく、将来不安を解消するために、じっくり資産づくりについてこの秋は考えていてはいかがでしょうか?