「人口減少傾向でも、世帯数は増加」がビジネスの鍵となる

2017.08.29

 日本の人口減少が問題視され、多くのメディアで騒がれています。確かに国の力を計る時に、人口数は大きな指標の一つですし、ビジネスでいえば市場規模に直結してくるので、重要な課題ともいえます。まして日本の場合は人口減少だけにとどまらず、高齢化社会を迎えようとしています。

 そんな中、花王が2017年2月に発表した2016年12月期の連結決算(国際会計基準)は、純利益が前の期と比べて20%増の1265億円でした。食器用洗剤「キュキュット」などの日用品の販売が好調というのがその理由なのですが、人口は減っているのに、なぜ日用品の販売が好調なのでしょうか?

人口減少の影の向こうに「世帯数増加」という光

 実は、日本は人口減少をしているものの、世帯数は増えています。厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」(2016年版)によると、2016年(平成28年)6月2日現在、世帯総数(熊本県を除く)は4994万5000世帯です。

 世帯構造をみると、「夫婦と未婚の子のみの世帯」が 1474 万 4000世帯(全世帯の 29.5%)で 最も多く、次いで「単独世帯」が 1343 万 4000世帯(同 26.9%)、「夫婦のみの世帯」が 1185 万 世帯(同 23.7%)となっています。

 世帯類型をみると、「高齢者世帯」は 1327 万 1000世帯(全世帯の 26.6%)で年次推移をみると増加傾向となっています。また、「母子世帯」は 71 万 2000世帯(全世帯の 1.4%)となっています。

 

 過去をさかのぼって比較すると、単独世帯や核家族世帯が増加している状況が見えてきます。ちょうど平成元年をさかいに、世帯人数と世帯数が逆転しています。現在は世帯人数は2.47人。昭和28年は、世帯数が1718万世帯で、平均世帯人員は5人でした。

 世帯数が増えたことで、求められるものはなんでしょうか? 例えば冷蔵庫や洗濯機など家庭に一台必要なものは、昭和28年は1世帯あたり5人で1台を共有していたでしょう。それが今では2.47人で一台ということになります。つまり、一世帯あたりで必要なものは人口減少の中でも、需要が増加傾向にあるのです。

 先に挙げた花王も、日用品の販売が好調だった理由として単身世帯など世帯数の増加が背景にあるとしています。

人は減っても部屋が必要なのは世帯数増加も一因

 同じようにマンションやアパートなどの建設が続いている原因の一つも、世帯数の増加にあると言えそうです。家は世帯ごとに必要なもの。そこで、人口は減っても世帯数が増えている現在の日本では、住む場所もまた日用品のように求められているのです。

 もう一つ、注目すべき動向として65歳以上の者がいる世帯の状況です。先ほどの厚生労働省の「国民生活基盤調査の概況」(2016年版)によると、65歳以上の者のいる世帯(熊本県を除く)は、2416万5000世帯と、全世帯の48.4%にもなっているのです。

 世帯構造をみると、「夫婦のみの世帯」が 752 万 6000世帯(65 歳以上の者のいる世帯の 31.1%) で最も多く、次いで「単独世帯」が 655 万 9000世帯(同 27.1%)、「親と未婚の子のみの世帯」 が 500 万 7000世帯(同 20.7%)となっています。

 

今後は高齢者世帯がマーケティングにおいて注目されてくる

 人口減少の中、世帯数は増え、そのうち半数近くに高齢者がいる状況ですが、ここでさらに細かく見ることで注目すべき人たちが見えてきます。それが65歳以上の者のいる世帯(熊本県を除く)のうち、単独世帯と夫婦のみの世帯です。前者は655万9000世帯(高齢者世帯の49.4%)、後者は619万6000世帯(同46.7%)となっています。

 

 つまり高齢者世帯のうち、多くが単身、ないしは夫婦のみとなっています。子供たちが一緒に暮らすといった昔の家のイメージからは離れ、高齢者は単身、もしくは高齢者同士で支え合っている状況があります。この場合、彼らが求めるものは何かということを考えることが、企業として急務なのではないでしょうか。

 たとえば、パナソニックはこうした高齢者をターゲットにした「Jコンセプトシリーズ」を展開しています。6月にはJコンセプトシリーズとしてLEDシーリングライトと、電動アシスト自転車を発売しました。LEDシーリングライトは、高齢になると色の見え方が黄色がかると言われており、その黄色を抑え青色が引き立つ波長制御を取り入れたもの。色のバランスが整えられ、見やすくなります。

 一方、電動アシスト自転車は軽量でまたぎやすく、常時点灯やスタート時の速度上昇が優しいアシスト設定などができるというものです。

 不動産投資やアパート経営などの資産づくりにおいても、この視点は重要です。世帯数の増加による可能性を感じつつも、その世帯数増加と共に増加を続ける高齢者世帯にマッチしているエリアや商品かということを考えることも重要です。アパート経営の会社の中には、介護事業を展開、サービスとして提供しているところもあります。こうした会社であれば、例えば、最初はアパートを一般のユーザー向けに貸していて、将来的に高齢者向けの住宅にするということも考えられますし、最初から高齢者向けのアパート経営を行うといったことも想定できます。

 利回りの良さだけに目を奪われるのではなく、こうした企業の事業や業績などを見極めた上で、資産づくりとして不動産投資やアパート経営に乗り出すことが、これからの時代には重要になってくるのかもしれません。

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最終更新日:2017.08.29

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