制度・税制

民泊法成立で「空き家問題」は解消となるか?

2017.06.30

 自宅の空き部屋などに客を有料で泊める民泊のルールが決まりました。住宅宿泊事業法(民泊法)は、来年から施行される見通しです。部屋を提供する事業者は、都道府県への届け出や宿泊者名簿の作成、衛生管理が義務となります。これまで日本国内ではグレーだった民泊が、しっかりとサービスとして提供できるようになったともいえます。

 民泊は、米国のAirbnbの普及とともに世界的に急速に利用され始めており、日本国内でもすでに多くの外国人旅行者などが利用しています。京都などを歩いてみると、ちょっと脇道にそれたところにそれらしい建物が多く見受けられますが、これまでは届け出がないなど問題も多数抱えていました。

日本国内の民泊は東京五輪で追い風

 政府は東京五輪が開催される2020年の訪日外国人の目標数字を4000万人としています。ところが、この数を満たそうとすると東京と大阪でホテルが計2万室以上不足するという試算もあります。そのため民泊は有力な受け皿として注目を集めています。

 新法成立と東京五輪の見通しで、参入企業も増えています。KDDIは民泊新法の成立を受けて民泊の仲介事業に参入することを発表、すでに仲介事業を6月23日にスタートさせています。

 6月22日には、楽天が民泊仲介のプラットフォームを立ち上げると発表、日本航空や全日空も民泊と航空券を組み合わせたパッケージを販売しはじめています。

 これまで個人や小規模な事業者が行ってきた「民泊」に、新法成立を受けて大手企業が続々参入しているのです。

 今回の民泊法では、民泊の営業を最大で180日としていますが、自治体が条例で減らすこともできますので、どのエリアでサービスを提供するかということは検討する必要があります。長野県軽井沢町などは町内全域で民泊施設を認めない方針を打ち出しています。

 一方で上限180日を適用しなくてもいいとする自治体もあります。「特区民泊」と呼ばれ、東京都大田区などが知られていますが、各地でこのような地域が増加傾向にあります。もし、民泊を始めようと思ったら、こうした特区の情報などのリサーチも欠かせません。例えば、千葉県千葉市は若葉区と緑区などで「特区民泊」の制度化を進めようとしています。

空き家、空き室問題解決の新たな一手「民泊ビジネス」

 全国の空き家の数は、総務省の2013年の調査(平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果)では820万戸にのぼります。野村総合研究所の調査(2030年度の新設住宅着工戸数は持家18万戸、分譲11万戸、貸家25万戸 〜 リフォーム市場規模は6兆円台で横ばいが続き、空き家率は2033年に30%超へと倍増 〜)では、空き家は2017年から16年後の2033年には2166万戸にまで増加するという予測を立てています。

空き家数の実積と予測結果
(出典:野村総合研究所『2030年度の新設住宅着工戸数は持家18万戸、分譲11万戸、貸家25万戸』 より作成)

 こうした空き家の増加が予想されるのは、人口減少にともない世帯数が減少するのに対して、新たな住宅の建設は続いて、住宅の戸数は増え続けるという背景があるからです。人口減少は日本の大きな課題ですが、その中で起きてくるこの空き家問題の解決策の一手となりそうなのが、この「民泊ビジネス」といえるでしょう。

 実際、日本人が減っていくのであれば海外の人材を受け入れてでも国を成り立たせなくてはいけません。そのためには、海外の人たちに観光などを通じて日本を体験してもらう必要があります。

民泊ビジネスには参入障壁がある場合も

 多くの外国人旅行者が日本を訪れていることに対して、ビジネスになるからということでゼロから旅館を始めようという人は少ないでしょう。しかし、自分が部屋を持っていて、貸せる余裕があるのなら、それをビジネスにしてもいいと考える人は多いのではないでしょうか?

 さらにそれを一歩進めると、中古マンションや戸建てを手に入れて民泊ビジネスを実施することなども考えられます。しかし、マンションなどの場合だと組合の反対などがあり、なかなかビジネスを推進することが難しいケースもあります。

アパート経営が新たな選択肢に

 こうした背景から、それならばアパート一棟のオーナーになって経営しようという人も増えているようです。旅館を経営するのであれば、膨大な手間とお金がかかりますが、アパート経営であれば、サラリーマンの副業で行っている人も多くおり、旅館の経営に比べて手間もお金もそれほどかかりません。

 アパート経営をサポートする会社などでは、民泊ビジネスを支援するサービスを提供していることも多くあります。最近では、IoT(Internet of Things)の普及で、鍵の受け渡しなどをネットを通じて行えるようなことも可能になってきたので、会社などにいながらにして借り主に鍵を与えたり回収したりといったこともできるようになっています。

「民泊ビジネス」を皮切りに、日本人だけをターゲットとしない新ビジネスがどんどん登場してくるのかもしれません。

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最終更新日:2017.06.30

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