アパート経営のノウハウ

人気エリアでも「駅までバス物件」に
未来がない理由

2017.05.26

 団塊世代にとって、家とは静かな環境で子供達をのびのび育てる場でした。そのため、駅から少し離れた住宅街にニーズが多くありました。しかし、彼らが住宅を購入した時を30歳とすると、1977年〜1979年代。40年近く経った今、この価値観はまだ現代に通用するでしょうか? 横浜市でも、2015年国勢調査(総務省)によると人口減少が増えています(港南区、金沢区、栄区、瀬谷区など計8区)。中でも「首都圏の住宅地」として高度経済成長期を支えた港南区が減少しつづけている点に注目です。これは、国として人口が減少しているだけでなく、現在の若い世代がこうしたエリアに魅力を感じられなくなってきたからと言えるからです。

 現在、若い世代では狭くても都心・駅近がいいという層が増えています。いわば「職住一致」志向です。その結果、7平米(四畳半程度)のような小さな部屋でも、都心近くの駅から近い立地ならすぐ埋まるという現象も起きています。

「首都圏の住宅地」は減少、都心志向強く

 先ほどの横浜市に目を向けると、都筑区や鶴見区、港北区は人口が増えているのですが、この3区はどこも東京都に近い区です。さらに東京都に近い川崎市の人口は武蔵小杉駅の人気などもあり7つの区すべてで人口増です。武蔵小杉駅などはファミリー向けのマンションもあり、この傾向は独身の若い世代だけでなくDINKSや子育て層でも同じようです。

 従来とは異なり、DINKSや子育て層ですら都心に近づこうとする理由、それは「共働き」にあります。

 団塊世代は父親が働き、母親は郊外の家で子育てをするというスタイルが一般的でした。しかし、次の図を見てください。これは、独立行政法人 労働政策研究・研修機構が発表した専業主婦世帯と共働き世帯数の推移を見たものです。

専業主婦世帯と共働き世帯 1980年〜2016年

 これによると1996年を境に専業主婦世帯と共働き世帯は逆転し、2016年では共働き世帯が1,129万世帯に対し、専業主婦世帯は664万世帯となっています。働き手の人口が減少していくなか、女性の労働力が見直され、社会進出するようになったことで「住宅に対する価値観」も大きく変わってきたのです。

求められる物件は、環境重視から、利便性重視へ

「共働き」夫婦にとって、駅から遠い場所は不便な存在です。どんなにいいエリア(地域)であっても、その地域において生活の利便性が担保できているかどうかが重要です。たとえ最寄り駅が人気の武蔵小杉駅でも、バスを使わなければならない距離では誰も購入しようとは思いませんよね? いま、住宅に求められていることは、環境よりも利便性。買い物施設が整っていたり、大学や会社に通勤しやすかったりすることが求められているのです。

 人気エリアだから、住宅地として古くからあるから……などの理由で安易にエリアを選んでは後悔することにもなりかねません。人々に求められるモノは、たとえ不動産であってもトレンドがあるのです。アパート経営などで、中古物件なら利回りがいいからと安易に人気エリアの物件を選んだら、駅までのアクセスが不便だった、では目もあてられません。立地選択では、その場所が「利便性」を持っているのかということも注視することが重要です。

 余談ですが、こうした日本人の都心志向を加速させたもう一つの要因が国の方針です。1997年に大都市法の改正が行われました。容積率の緩和や計算方法の変更などが行われ、都市部の湾岸エリアなどに立地していた工場などが海外へ移転し、マンションに変わりました。都心でも、マンションが供給しやすくなったことで、いっそう都心へという思いが強くなっていったのです。

 都心部に供給されるタワーマンションなどで完売が続出したり、オフィスや交通インフラ、病院、商業施設なども都心部に集まってきたりしている理由は、まさに「共働き」「国の方針」という社会的な背景がベースにあるのです。

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最終更新日:2017.05.26

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