所得格差過去最大の日本
加速する格差社会で生き残る方法

2017.05.11

「格差社会」などとも言われている現代ですが、具体的にどのくらい格差が起きているのかを指摘できる人は少ないのではないでしょうか? 実はこの格差を数字で知る方法があります。それが「ジニ係数」です。

 ジニ係数は、主に社会における所得分配の不平等さを測る指標です。0から1までの値をとり、0に近いほど所得格差が小さく、1に近いほど所得格差が大きいことを示します。日本の所得分配の不平等度を計測している統計には厚生労働省が実施している所得再分配調査があります。

日本の格差は過去最大、働く世代が損をする

 2016年9月15日、厚生労働省「平成26年所得再分配調査」が発表されました。ここで、公的年金などを除いた世帯間所得の格差が2014年に過去最大となったことがわかりました。

 世帯間の格差を指数で表した「ジニ係数」は0.5704で、前回よりも0.0168ポイント増えて格差が広がり、調査開始1962年以来、格差が最も大きくなっています。

 フランスのパリに本部を持つOECD(経済協力開発機構)でも、ジニ係数を出しています(Income inequality remains high in the face of weak recovery/OECD 2016年レポート)。こちらの最新のレポートでは、日本のジニ係数は0.330。平等社会と言われるスウェーデン(0.281)やベルギー(0.268)、ドイツ(0.292)、フランス(0.294)やスイス(0.295)はすべて0.3以下で、逆にアメリカなどは0.394と高くなっています。

 日本国内に話を戻しましょう。具体的な数字で見てみると、一世帯あたりの平均所得は392万6000円で、前回調査を行った2011年より12万1000円減少しています。もっとさかのぼって、2005年調査時と比べると73万2000円も減っています。

 しかし、厚生労働省の発表資料を見ると「格差は拡大していない」と強調されています。それは「格差」を当初所得ではなく、年金・社会保障などで再分配した後の再分配所得で比較しているからです。再分配後の所得では、1世帯あたりの平均所得は481万9000円。ジニ係数では世帯間格差は0.3759で、前回より0.0032ポイント減っています。確かに格差は拡大していません。

図1 所得再分配によるジニ係数の変化
(出典:厚生労働省「平成26年所得再分配調査報告書」より図3を加工して作成)

 ここで、当初所得と再分配所得について説明しておきます。

 当初所得とは、雇用者所得、事業所得、農耕・畜産所得、財産所得、家内労働所得、雑収入、私的給付(仕送り、企業年金、生命保険金など)の合計額で、公的年金など社会保障給付は含まないものを指します。

 再分配所得とは、当初所得から税金、社会保険料を控除し、社会保障給付(公的年金などの現金給付、医療・介護・保育の現物給付含む)を加えたものです。

 厚生労働省はこの再分配所得を指して「格差」は拡大していないとしているのですが、これはつまり、年金など所得の低い世帯が受け取る社会保障費が増加しているという意味でもあります。世帯間の格差を縮めている代わりに、世代間の再分配には不均衡が起きています。

図2 当初所得階級別所得再分配状況
(出典:厚生労働省「平成26年所得再分配調査報告書」より)
図3 世帯主の年齢階級別所得再分配状況
(出典:厚生労働省「平成26年所得再分配調査報告書」より)

 実際に資料を見てみると、図2では当初所得が低い階級ほど再分配係数(当初所得に対する再分配所得の増加割合)が大きくなり、当初所得が550万〜650万、700万以上の所得者は再分配係数がマイナスになっているのがわかります。さらに、図3で再分配で得られた世帯員一人あたりの再分配後の所得と当初の所得を比較すると、60歳以上はプラスで、59歳以下はマイナスになっています。

 再分配自体は、どの国でも行なっていることですし、格差をなくすことは国の命題でもありますから悪いことではありません。しかし、割を食っているのは、表でもわかるとおり働く世代です。高齢者と比べて、格差といえるほどの収入を得ていないのにもかかわらず、再分配の恩恵は受けられないという現実が浮かび上がります。

不安なのに、何もしないが4割を超える日本

 金融広報中央委員会が、毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査」(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」[単身世帯調査](2016年))では、老後の生活について「非常に心配である」と「多少心配である」という回答を合わせると84.5%にもなるのです。

 一方、「それほど心配していない」人はわずか15.5%と少数です。

図4 老後の生活への心配
(出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」[単身世帯調査](2016年)より)

 老後の生活を心配している理由としては「年金や保険が十分でないから」と「十分な金融資産がないから」が非常に高く、老後に対して金銭的な備えができていないことが不安の原因ともいえます。

図5 老後の生活を心配している理由
(出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(2016年)より)

 ところが、これだけ不安であると訴えているのにもかかわらず、内閣府が老後の経済生活に備えてアンケート「平成27年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」を行った結果、「特に何もしていない」と回答する人が42.7%を占め、預貯金(46.6%)に次いで多いのです。これは他国と比較してもかなり高い数値です。将来に不安がありつつも、若い内から資産を作り備えるための対策を講じていない、という矛盾を抱えているのが数値から良く分かります。

図6 老後の生活費に対する備え
(出典:内閣府「平成28年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」の「(4)経済生活」より)

「資本」を持つことが生き残りへの道

 フランスの経済学者であるトマ・ピケティはその世界的ベストセラーとなった著書『21世紀の資本』(2013年、みすず書房)で長期的に見て、資本収益率(r)は、経済成長率(g)よりも大きいと示しました。rとは利潤、配当金、利息、貸出料などのように資本から入ってくる収入のこと。そして、gは給与所得などによって求められます。

 同書が行なった過去200年以上のデータ分析の結果によれば、資本収益率(r)は平均で年に5%程度であるものの、経済成長率(g)はより少ない1〜2%の範囲で収まっていると説明。このことから、経済的な不平等が増していく基本的な力はr>gという不等式にまとめられるといいます。

 資産によって得られる富のほうが、労働によって得られる富よりも速く蓄積されやすいため、資産金額の上位にいる人のほうがより裕福になりやすく、格差は拡大しやすいというわけです。しかも、蓄積された資産は子に相続され、労働者には分配されません。

 高齢化が進む日本で、今までのように「不安だがアクションを起こす勇気もない」という人は、淘汰されてしまう社会が、もう間もなくやってくるのかもしれません。来るべき格差社会が来る前に、今から資産を作り、備える事も必要となってくるでしょう。

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最終更新日:2017.05.11

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