アパート経営とインボイス制度

2023.12.01

 2023年10月1日からインボイス(適格請求書)制度がスタートしました。居住用賃貸アパートの家賃には消費税がかからないため、賃貸経営者には関係ない、と思っていませんか? 実は消費税納税事業者の人や、店舗や事務所などに部屋を貸し出している人には関係してきます。今回はアパート経営にインボイス制度がどのような影響を与えるのか、詳しく解説します。

インボイス制度が導入された背景と概要

 インボイス制度は、取引項目ごとの消費税適用税率、および消費税納税事業者なのか否かを取引先や税務署が判別できる請求書の様式とすることで、消費税を正しく徴収することを目的に創設されました。

 消費税については1989年の導入開始当初から「基準期間(前々年度)の売上高が1000万円以下の事業者」は納付義務が免除される「免税事業者」制度が採用されています。しかし免税事業者であっても請求先には消費税を含めた金額で請求することが多く、請求先はこの金額で仕入税額控除を受けることから、「支払者から消費税額として受け取っているにもかかわらず納税されず、免税事業者の利益となっている」金額が発生していました。この金額を益税と言います。益税を正しく税金として納めてもらうことが国の課題でした。

 また、2019年10月に実施された消費増税に伴い、同じ請求書や領収書内に税率10%の取引と軽減税率8%の取引が混在するようになったことも、インボイス導入の背景にあります。国税庁では、複数税率において「売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝える」ことをインボイス制度の目的と説明しています。

 インボイス制度導入後は、「適格請求書発行事業者」による適格請求書(インボイス)でなければ、仕入税額控除(※)できないルールに変更されました。「適格請求書発行事業者」に登録するには、課税事業者である必要があります。つまり、これまで免税事業者だった人が「適格請求書発行事業者」になるためには、課税事業者に変更する必要が生じたのです。

※課税事業者が納税すべき消費税を計算する際に、売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて計算することによって、消費税の二重課税を解消する仕組みのこと。

 また「適格請求書発行事業者」が発行する請求書や領収書についても、適格請求書発行事業者番号を記載する、取引金額を消費税率ごとに分けて記載する、など様式が厳格化されています。

居住用物件は消費税非課税

 アパートオーナーの方ならご存知のとおり、家賃収入は消費税の課税対象外となっています。居住用物件の家賃は生活するうえで必要不可欠な支出であることから、特別扱いされているのです。消費税は消費者が直接税金を納めるのではなく、納税義務者となった事業者が代わりに税金を納める「間接税」であるため、もともと消費税を受け取っていない賃貸物件のオーナーは税金を納める必要がありません。年間家賃収入が1000万円を超えていたとしても同様です。
 
 「居住用物件の家賃収入」と認められるには、「契約書に居住用であることが明記されていること」と、「賃貸期間が1カ月以上であること」という、ふたつの要件を満たす必要があります。

 1カ月に満たない短期間の賃貸は“ホテルなどへの宿泊”と同類と見なされ、課税対象となるため注意が必要です。家賃以外の駐車場代なども課税対象です。

事業用物件は課税対象

 一方で、同じ賃貸物件であってもオフィスや店舗などの事業用に物件を貸与している場合には、話が変わってきます。非課税となるのはあくまで“居住用”物件の家賃であって、利益を目的とする事業用物件の家賃には適用されず、課税対象となるのです。

 事業用物件の年間家賃収入が1000万円を超えている場合はもともと課税事業者なので、「適格請求書発行事業者」に登録するにあたって大きな問題はないでしょう。ただし、これまで事務所家賃など取引の都度、請求書が交付されない取引については、口座振込の「振込金受取書」と「賃貸借契約書」の保存が仕入税額控除の条件でしたが、インボイス制度下ではさらに適格請求書発行事業者の登録番号、消費税率、消費税額などを記載した通知書も必要書類として求められるようになったことには注意が必要です。

 判断が難しいのは、年間家賃収入が1000万円未満で免税事業者としていた場合です。これまで免税事業者だった人も、インボイス制度が始まったことにより「適格請求書発行事業者」に登録し、課税事業者になった方が良いケースが生じてきました。というのも、「適格請求書」がないと貸出先の相手は家賃分の経費から仕入税額控除できないためです。繰り返しになりますが、免税事業者は取引額に消費税を計上できません。

 まだ「適格請求書発行事業者」に登録していない免税事業者のオーナーは、貸出先の会社などとよく話し合った上で、これまで通り免税事業者のままとするか、新たに課税事業者(適格請求書発行時業者)となるかを判断しましょう(これまで家賃請求額に消費税を計上していないのなら、免税事業者のままで問題ありません)。

アパート売却時も消費税がかかる

 インボイス制度の影響についてはもうひとつ、不動産売却時のことも考えなくてはいけません。前述のように消費税は事業者が納める税金のため、個人が暮らしてきた家や土地を売却する場合には非課税です。しかし、賃貸用物件など事業用途の建物を売却する場合、また不動産会社が建物を売却する場合には消費税がかかります(土地は消費される性質ではないため、売却しても非課税です)。

 そのため課税事業者が建物を売却する場合は、「適格請求書発行事業者」に登録した上で売却相手に適格請求書を発行する必要があります。これまで免税事業者だった場合でも、売却額が1000万円以上となる場合には翌年度から自動的に課税事業者となる点には注意が必要です。

 このようにインボイス制度は、賃貸物件を貸し出している相手や家賃収入の金額など、ケースによって影響度が大きく変わります。制度は既にスタートしていますが、今から新たに課税事業者となり、「適格請求書発行事業者」に登録することも可能。判断が難しい場合には、税理士などプロに相談しましょう。

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最終更新日:2023.12.01

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