
ポストパンデミック時代の新たな収益源 - レンタルスペースの有効活用
欧米から始まった「民泊」、「コワーキングスペース」といったシェアリングサービスは、今や世界中に拡大しました。そのひとつに賃貸物件の一部などを利用した「レンタルスペース」があります。新型コロナウイルス感染拡大がひと段落し、人の動きが活性化し始めたポストパンデミック時代の今、レンタルスペースの有効性について考えます。
レンタルスペースとは?
レンタルスペースとは、アパートやマンションといった賃貸物件やオフィスビルなどの一部を、“時間貸し”するサービスのことです。いわば民泊の時間貸し版と考えれば良いでしょう。
スペースの利用用途は様々です。個人利用のコワーキングスペースとして利用される場合もあれば、ミーティングの場として、あるいは趣味の教室やアトリエとして利用できる場所もあるかもしれません。ある程度の広さがある空間ならパーティ会場や各種イベント会場、撮影スタジオ、レッスンスタジオといった利用も考えられます。最近では動画配信用のキッチンスタジオも人気です。
立地やスペースの広さ、間取りなどの条件によって、どのような利用用途が適しているか、どのような設備が必要かは異なります。「SPACEMARKET(スペースマーケット)」などレンタルスペースの検索に特化したサイトを見ると、様々な広さやインテリア、設備の空間を見つけることができます。空間を利用者が所有するのではなく、必要に応じて借りる方が効率的という考え方の普及、そしてインターネットやアプリで検索しやすくなったことが、レンタルスペースという空間の新たな活用法を生み出しました。
少し前まで新型コロナの影響で人の移動や集合、飲食が制限されていましたが、ポストパンデミックの時代となったことで再びレンタルスペースが注目を集めています。
空室をレンタルスペース化するメリット
賃貸物件の一部を、レンタルスペースとして活用する場合のメリットについて考えてみましょう。ひとつは空間を収益化できることです。賃貸物件の場合、空室となっている部屋は維持管理費用が発生するだけで、利益は一切もたらしてくれません。空室をレンタルスペースにすることで、仮に僅かな利用しかなかったとしても収益をプラスにできます。
立地などの条件が良く、人気のレンタルスペースにすることができれば、部屋として貸与する以上の利益を生み出してくれる可能性もあります。仮に1時間1000円の利用料金だとして、ひと月に100時間の利用があれば10万円の売上。空室をそのまま放置していた場合、売上はゼロ(維持管理費用を差し引くとマイナス)ですから、不動産投資としては極めて有効です。新たな収益源を確保することはリスク分散にもつながるでしょう。
また築年数や駅までの距離といった、賃貸物件で一般的に重視される条件とは評価軸が異なることも、工夫次第でメリットになるかもしれません。たとえば築年数の古い物件の内装を敢えて活かし、レトロな雰囲気のスタジオにする、といった活用法が考えられます。
利用料金を自由に設定でき、状況に応じて変更できるのもメリットのひとつです。まずは近隣で同じような条件のレンタルスペースと近い料金にしておき、利用状況に応じて変更するのも一案でしょう。
レンタルスペースのデメリット
いっぽうで、レンタルスペース化することによるデメリットも考えられます。ひとつは収益が不安定なこと。たとえばイベントスペースの場合、年末年始、夏休みなどは需要が集中しますが、それ以外のシーズンは閑散期となり、売上の浮き沈みが激しくなりがちです。キャッシュフローを予測しにくいことがデメリットになるかもしれません。
ただし、もともと空室だった場所を利用するなら、たとえ売上が変動したとしても大きな問題にはなりません。レンタルスペースが軌道に乗るまでの間は、家賃収入プラスアルファの収益と捉えておくのが良いでしょう。
初期投資が必要なこと、設営や清掃に手間がかかる点もデメリットのひとつです。たとえば撮影スタジオとして運用するなら、家具などのインテリアを新たに設える費用はオーナー自身が負担しなければなりません。セミナーなどのスペースとして運用するなら、事前に机や椅子を並べる手間がかかります。設営や清掃は外部に委託することもできますが、当然、費用が発生します。
さらに利用者募集にあたっても、前述のようなポータルサイトに掲載するにはコストがかかります。コストをかけず、口コミでの集客に頼る……という手段もありますが、おそらく稼働率は伸びにくいでしょう。費用をかけてでも採算が合うかどうかは、事前のリサーチと戦略にかかっています。立地や間取りなどの条件を鑑みながら、レンタルスペースとしてのニーズを予測し、必要な投資を行うことは不動産投資全般に通じて必要なことと言えるでしょう。
レンタルスペースを始める上で注意すべきポイント
アパートなどでレンタルスペースを稼働するにあたって、注意しておきたいこともあります。第一に、入居者、近隣への配慮は欠かせません。大勢が集まるパーティスペースやイベントスペースなどとした場合、騒音や不特定多数の出入りが原因となって入居者とトラブルに発展してしまうケースも考えられます。
予めレンタルスペースの利用規約を作成して利用者に配慮を促す、レンタルスペースの利用者と入居者の動線が重ならないように配慮する、部屋に防音対策を施す、といった事前の準備は必須となります。「レンタルスペースを始めたために、アパートから退居する人が増えてしまった!」などという事態になってしまっては元も子もありません。賃貸物件の主役はあくまで入居者であることを忘れないようにしましょう。
所有している区分所有マンションをレンタルスペースとして貸し出す場合には、管理規約にも注意します。マンションによっては営業目的の利用を禁じている物件もあるためです。またレンタルスペースは基本的に宿泊利用できないことも知っておきましょう。宿泊を目的とした場合は「民泊」となり、事前に「住宅宿泊事業者」として都道府県知事等へ届け出る必要があるためです。
ちなみにレンタルスペースを開業するにあたって、既に賃貸物件として稼働している建物であれば特別な届出や資格の取得は必要ありません。ただし、建築基準法で定められた「建物用途」、都市計画法の「用途地域」と著しく異なる使い方(工業用設備を配置するなど)はできないことに注意が必要です。また、利用用途によっては消防署や保健所に申請しなければならないケースもあります。
空室を収益化する手段としても注目を集めているレンタルスペース。必ずしもベストな解決方法になるとは限りませんが、常に複数の選択肢を持っておくことは不動産投資する上で大切な姿勢です。時代のニーズを捉えた賃貸経営を目指しましょう。