
黒字倒産になるアパート賃貸経営のデッドクロスとは
「デッドクロス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 株式の世界でも、下降相場に入ったサインとして使われる言葉ですが、不動産経営における「デッドクロス」は意味が異なります。不動産経営でデッドクロスに陥ると、状況によっては黒字倒産してしまうことも。今回はデッドクロスの意味と黒字倒産する状況について、また黒字倒産を避ける方法を解説します。
デッドクロスとは
不動産経営におけるデッドクロスを端的に言うなら「減価償却できる金額よりも、ローン元金返済額の方が多くなった状態」と説明できます。
そう言われても、どうしてそのような状態になるのか、なぜキャッシュフローが悪化するしにくいのか、理解しにくいかもしれません。順を追って説明していきましょう。
まずは減価償却について。これはアパートなどの建物取得に要した費用を購入時にまとめて経費とするのではなく、経年に応じて価値が減っていく分(減価)だけ毎年、分けて経費算入(償却)する仕組みです。不動産取得年度に一括経費算入すると、その年度以降の純利益が増え、納める税額が増えてしまいますが、減価償却費として毎年計上することで帳簿上の利益を減らし、税額を少なくすることができます。実際の支出ではない、いわば架空の経費と言えます。
減価償却できる期間は建物の構造ごとに定められた法定耐用年数によって決まり、毎年同じ金額を経費算入する「定額法」と、毎年同じ割合で減価していく計算法(取得価額−前年までの償却費の合計額)×償却率)を経費算入する「定率法」の2種類があります。なお、減価償却できるのは不動産の中でも建物部分のみで、土地は対象になりません。土地の価値は経年に応じて減るものではないからです。
次にローン返済額について考えます。ローン返済は先ほどの減価償却費と違って実際に出て行く金額ですが、その元金相当分を税務書類上の帳簿で経費にすることはできません。経費算入できるのは利息分のみです。ローンの返済方法には主に、毎月一定額を払う「元利均等返済」と毎月一定の元金と元金残高に応じた利息を払う「元金均等返済」があります。
税務書類上の帳簿に記載する収支と、実際の収支が異なることは、経理に携わったことのある人ならよく理解されていることでしょう。そのため経費算入できる減価償却費が減ったり、完全になくなったりした状態でローン返済が残っていると「実際の収益は少ないのに、税務上の帳簿では大きな黒字になる」といったことが起こり得ます。すると納める所得税(法人の場合は法人税額)などの税額が多くなり、赤字に陥ってしまうことがあります。これがデッドクロスと呼ばれる状態です。
デッドクロスが起こる理由
デッドクロスはどのようなときに起こるのでしょうか? 決して特別なときにだけ起きるのではありません。一般的に建物の法定耐用年数は実際の耐用年数よりも短めに設定されており、ローンの返済期間を法定耐用年数より長く設定することが可能だからです。ちなみに木造アパートの場合、法定耐用年数は22年。仮に30年のローンを組んだ場合、後期の8年間は確実にデッドクロス状態になります。
また、法定耐用年数を過ぎた物件を購入した場合、減価償却できる期間は4年と定められているので、その期間後にデッドクロスとなることは避けられません。つまりデッドクロス自体は不動産経営をしている限り日常的に起きる現象であり、必ずしも悪い状態とは限りません。問題となるのはデッドクロスによって納める税額が増え、キャッシュフローが悪化してしまう場合です。最悪の場合、実際の収支は赤字にもかかわらず、税務上の帳簿では黒字となり倒産してしまう、いわゆる黒字倒産のリスクが発生します。
黒字倒産を回避するための対策
黒字倒産を避けるためには、どうしたら良いのでしょうか? 以下のような対策が考えられるでしょう。
・自己資金を多くし、ローン返済期間を短くする
減価償却できる期間に合わせてローン返済期間を短く設定できれば、デッドクロス自体が発生せず、投資期間後期にキャッシュフローが極端に悪化することもありません。自己資金を多めに投入し、月々の返済額を減らすことができれば、それがベストです。ただ、この方法は不動産経営へのハードルを上げてしまうことになってしまうかもしれません。大丈夫、他の対処方法もあります。
・元金均等返済を選ぶ
ローンの返済方法には毎月一定額を払う「元利均等返済」という方法もありますが、デッドクロスを防ぐためには返済期間後期になるほど支払金額が減る「元金均等返済」の方が有利です。「元金均等返済」では返済初期ほど多くの利息を払い、後期は少なくなるので経費参入できる金額は減ってしまいますが、それでも出費が減るメリットの方が大きいでしょう。ただし、「元金均等返済」では初期の返済金額が多くなるので利回りの良い物件を選ぶなどの工夫が必要です。
・減価償却を定額法にする
減価償却には「定率法」と「定額法」、2種類の計上方法があることは説明しましたが、「定率法」では初期に経費算入できる金額が大きくなるメリットがある一方で、後期になると徐々に減っていき、税務書類上の収益が増えてしまうデメリットがあります。デッドクロスを防ぐためには「定額法」の方が有利です。ただし、「定率法」「定額法」いずれにしても、減価償却期間を終えた後でデッドクロスに入るリスクがあることは変わりません。
・デッドクロスに備えて資金を貯めておく
デッドクロス突入後に資金ショートしてしまうリスクを下げるために、キャッシュフローが順調なときにできるだけ多くの資金をストックしておくことは大切なことです。事前にシミュレートして、どの時期にデッドクロスが発生するのかを把握しておきましょう。
・減価償却期間の長い物件を選ぶ
そもそも減価償却期間の長い物件を購入することで、デッドクロスのリスクは大幅に減らせます。最大の減価償却期間を確保できる物件は、言うまでもなく新築物件です。中古物件の場合はできるだけ築年数の新しいものを選ぶと良いでしょう。
・売却する
家賃収入によるキャッシュフローがどうしてもマイナスになってしまう状態なら、それ以上、不動産を所有している価値はありません。最終手段として、価値が残っているうちに売却してしまうのが賢明です。
本当に怖いのはデッドクロスではなく黒字倒産
法定耐用年数を過ぎても収益が出せる利回りの高い物件なら、デッドクロスが起きても黒字倒産にまで至りません。通常、利回りは取得時を想定したものであり、減価償却終了後の利回りがどう変化していくかは自分でシミュレートする必要があります。
上記のような対策を採れば、デッドクロス自体は怖いものではなくなるでしょう。シノケンはこれまで、長期にわたって安定的な収益が期待できる新築物件をオーナーとなる皆様に数多く御案内してきました。10年後、20年後も安心の賃貸経営を目指すなら、ぜひシノケンにご相談ください。