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あのWeWork創業者も賃貸住宅参入。今、大きく変化しつつある賃貸住宅事情とは

2022.10.18

アパートやマンションのオーナーになることは、不動産への投資であると同時に事業経営者になることでもあります。賃貸需要の変化やトレンドを敏感にキャッチすることは欠かせません。今回はアメリカでちょっとした話題になっている新業態の賃貸住宅を紹介するとともに、今後、日本の賃貸需要がどう変化していくかを考えます。

コミュニティ形成を重視する新形態のアパート

アメリカでは先日、ある人物が新たなスタイルの賃貸住宅経営を始めたことが話題になりました。その人物とは、かつて「WeWork」というシェアオフィスの会社を創業し、大成功したアダム・ニューマン氏。「WeWork」はスタートアップ企業の起業家たちを中心に熱烈なファンを獲得し、世界29か国に500か所以上の拠点を展開する企業です。日本にもソフトバンクグループとの合弁会社を設立して進出しましたが、2019年に不正経理やコーポレートガバナンスの不備等が発覚し、ニューマン氏はCEOを退任。現在は他の企業が「WeWork」を引き継ぎ、ニューマン氏は一線を退いていましたが、それでも彼のカリスマ的な魅力は人を惹き付けて止みません。「WeWork」の賃貸住宅版とも言える今回の新事業、一体どのような内容なのでしょうか?

賃貸住宅事業のために新しく設立された会社の名前は「Flow(フロー)」。アメリカでの報道によると、若者向けにリーズナブル家賃で住宅を提供し、共用ワークスペースやアメニティ設備が充実したものになる予定とのことです。しかし彼が最も声高に強調しているのは建物の豪華さや設備ではなく、現代で失われつつある「コミュニティ」を最も重視したものであるという点。2023年中のサービス開始を目指しており、公式ホームページもまだ「flow」という文字があるのみですが、ニューマン氏は既に10億ドルを投じてフロリダ州やジョージア州などに約4000戸の賃貸住宅を所有、さらにアンドリーセン・ホロウィッツという会社から3億5000万ドルもの投資を取りつけました。

背景には地価高騰やコロナによる変化も

実はニューマン氏、「WeWork」のCEOだった頃にも一度、「WeLive」というブランド名で賃貸住宅事業に乗り出しています。それは社交的で自らネットワークに参加したいと望む独身者のための寮……といった内容で、当時取材した記者は「流行に敏感な人たちの共同体、あるいは大人のための大学寮のようなもの」という印象を受けたそうです。しかし本社事業の経営悪化によって一瞬のうちに計画が頓挫。今回の「Flow」は「WeLive」のリベンジマッチと言えるのかもしれません。ニューマン氏は若い頃、イスラエルのキブツと言われる共同体で暮らしていたことがあり、「建物や土地だけでなく体験をも多くの人同士で共有する」キブツでの幸福な体験をアメリカでも再現したい、と考えたのがコミュニティを最重視する賃貸住宅というアイデアの発端になりました。

ニューマン氏が今回、改めて賃貸住宅事業に乗り出した事情からは、アメリカの住宅事情が抱える課題、住宅ニーズの変化が見えてきます。ひとつは新築物件建設の停滞や建築資材価格の高騰、そして都市部での人口急増が住宅コストを押し上げ、若者が住宅を購入しにくくなっているという点。アメリカでは既に5戸に1戸が個人ではなく機関投資家によって購入されている現状があり、その状況も住宅価格の高騰に拍車を掛けています。結果、住宅を購入する若者の割合は縮小し、30〜40代になっても賃貸物件に住み続けている事例が増えているのです。

もうひとつの理由には、新型コロナウィルスによる住宅ニーズの変化が挙げられるでしょう。在宅勤務・ハイブリッド勤務が普及したことにより、住宅への需要が「職住接近」から「住みたいところに住む」へと変化しました。そうした背景に前述の住宅価格高騰が重なり、若い世代を中心として都市部ではなく、郊外や近隣州で賃貸住宅に住む、というライフスタイルが定着してきたのです。彼はこうした変化をピンチではなく、理想を実現する千載一遇のチャンスと捉えました。

住宅ニーズが変化している時こそチャンス

お気づきの通り、こうした住宅事情の変化はアメリカだけで起きていることではありません。程度の差こそあれ、欧州や日本など先進国ではどの国でも同様の現象が起きています。日本でも近年、普及してきた「シェアハウス」や「ソーシャルアパートメント」も、そうした背景に乗じたものと言えます。景気停滞による収入低下により住宅を所有することはもちろん、賃貸でも家賃が高い、空間をシェアすることで家賃負担を下げようという発想です。従来との違いは、他者との空間の共有をネガティブなものではなく、コミュニケーションとしてポジティブに捉えていること。インターネットが普及した現代、他者とのコミュニケーションが希薄になる一方で、より積極的な交流を望む若者が一定数いることを「シェアハウス」や「ソーシャルアパートメント」の人気が証明しました。これはニューマン氏の思想とも共通する部分かもしれません。

コロナ禍による影響についても同様のことが言えます。長らく転入超過が続き、人口が増え続けてきた東京都でさえ、2020年7月〜2021年2月の期間は転出超過に。東京都下や神奈川県、千葉県などのエリアで70㎡を超える大型ファミリータイプの賃貸物件の家賃が上昇する現象も起きました。また、ある調査会社が不動産会社に行った調査によると「テレワーク想定で家探しをしている お客様の案内は増え続けていますか?」という質問に対し、72.9%が「増え続けている」と回答。さらに「紹介物件が駅から遠いことを(以前よりも)お客様があまり気にしなくなった」という回答が31.2%に上り、テレワークが普及、通勤を想定しない物件探しのニーズが高まっていることを示唆しました。

こうした住宅事情、集合住宅に対するニーズの変化は今に始まったものではありません。古くは江戸時代の長屋から始まり、戦後の復興、高度経済成長、バブル景気を通じて都市への一極集中が進み、そのニーズに応えて多くのアパートやマンション、団地などが集中して建てられた歴史があります。現在の都市における地価高騰と郊外の住宅に対するニーズの高まり、「ソーシャルアパートメント」の人気といった価値観の変化も、捉え方によっては不動産経営のチャンスになるでしょう。都市部の物件、駅近物件の需要は相変わらず高く、その傾向が根本から覆されることは今後も恐らくありませんが、郊外や地方都市、駅から遠いエリアの動向にも目を向け、変化を見極めることは不動産経営者として大切な視点なのかもしれません。

長年にわたってアパート・マンション経営に特化し、お客様の不動産経営をサポートしてきたシノケンは、こうした不動産ニーズの変化を敏感にキャッチ。都内だけでなく全国の主要都市にも拠点を展開し、地方都市でのアパート経営にも卓越したノウハウを有しています。将来を見越した不動産経営を強力にサポートすることができます。

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最終更新日:2022.10.18

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