
実態に即した収益性がわかる指標、NOI利回りとは?
アパート経営やマンション経営などの不動産投資では、投資体表を評価するために様々な指標が使われます。投資額とリターンがシンプルに結びつく金融投資と違い、資産価値を維持するためにコストがかかるためです。「利回り」にはいくつかの種類がありますが、「NOI利回り」は実質利回りとも呼ばれ、現実のキャッシュフローに近い数字が導き出せるのが特徴です。この記事では「NOI」とは何か? 「NOI利回り」の計算方法や活用法などを紹介します。
NOIは年間のキャッシュフローを表したもの
NOIは、Net Operating Income(ネット・オペレーティング・インカム)の略であり、「正味の収益であること」を表しています。純収益とも訳されますが、法的な「純利益」とは意味が異なるので注意が必要です。
不動産経営におけるNOIは、年間家賃収入から実際に発生した経費を差し引いたものです。利回りは「率」であり、「%」で記されるので、割った数字に100をかけた数字で表します。経費には管理費、各種税金などが含まれますが、減価償却費のような支出を伴わない費用、支払利息のような金融費用、修繕費などは含まれません。収入にも支出にも、資本的価値に由来するものは含まないのがNOIです。これに対して、年間家賃収入から全ての支出を差し引いたもの、つまり純利益はNCF(ネット・キャッシュ・フロー)と呼ばれます。
このNOIを利用して、一年間の利回りを計算したものがNOI利回りです。計算式は以下のとおりです。
NOI利回り(%)=NOI(年間家賃収入−実際に発生した経費)÷取得価格× 100
取得価格には、不動産の購入費用と、そのときに支払った法定費用、税金、士業や不動産仲介業者に支払った報酬などがすべて含まれます。不動産投資情報などで一般的に記載される「表面利回り」が単純に、年間家賃収入を取得価格で割ったものであるのに対して、NOI利回り(実質利回り)はより現実的な指標と言えます。
NOI利回りと表面利回りでは計算方法が違うので、導き出される数字も変わってきます。たとえば「表面利回りは高いが、NOI利回りは低い」といった物件が存在するのです。そうした物件では、物件取得価格が安く、家賃収入も多いが、管理費や税金など多くの経費がかかっている……といったケースが考えられるでしょう。物件の利回りを実態に沿って比較したいなら、表面利回りよりもNOI利回りの方が適しています。
NOI利回りを見るときに注意したいポイント
ただし、注意しておきたい点もあります。NOI利回りでは、地域や立地、新築と中古といった条件による差も、より顕著になる傾向があります。一般的には地方、あるいは駅から離れた土地の方が地価は安いために、計上される取得税や固定資産税等の経費も低くなるからです。都市部、立地条件の良い土地は税金等のコストが多くかかりますが、その分、賃貸ニーズが高く、空室リスクが少ないというメリットがあります。表面利回り、NOI利回りとも空室による損害は考慮されない、あるいは期待値であることが多いので、その点を踏まえて比較することが大切です。
ところで、不動産投資情報ではなぜNOI利回りでなく、表面利回りの方が一般的なのでしょうか? 投資家にとっては、最初から実態に即した値であるNOI利回りで物件の利益性を比較した方が便利なのに……と思われても不思議ではありません。
その理由は、NOI利回りを正確に算出することが難しいからです。NOIの計算に含まれる経費は建物の状態等によって大きく異なり、どの程度かかるかを見積もるには綿密な調査が必要となります。利回りは通常、年単位で計算されますが、NOIはその年によって金額が異なる項目も多く含まれ、投資期間全体を通した収益性とは大きく違ってしまうこともあります。
また既に実績のある中古物件はともかく、新築物件では家賃収入や空室リスクを見込みとして予想し、計算しなければなりません。誰が、どのような条件で予想したかによって結果が変わってしまうのです。投資情報で表面利回りが一般的に使われるのは、複数物件の条件を揃えてフラットに比較するためなのです。
ただし、条件の近いふたつの物件を比較して、どちらか一方を購入したい、キャッシュフローをできるだけ正確に見積もって借入金の返済プランを立てたい、といったシーンでは、やはりNOI利回りが有効です。投資情報ではNOI利回りが記載されていないことも多いので、その場合は投資家自身で経費を見積もり、NOI利回りを計算しましょう。
NOI利回りを改善するための手段
次に、既に所有している物件のNOI利回りが悪化しており、それを改善したいケースを考えてみます。前述のようにNOIは年間家賃収入と経費、取得費用で計算されますが、取得費用は決まっているため、その他の項目を改善するしかありません。家賃収入を上げるか、経費を減らす、のがNOI利回りを向上させるためのアプローチです。
家賃収入を上げるためには、家賃設定を高くする……のも、ひとつの手段ですが、物件の価値に見合っていない家賃に変更するとかえって空室が増えてしまい、収益性が悪化する可能性もあります。リフォームして新たな価値を生み出す、空室を減らすことに労力とコストを使った方が良いかもしれません。ただし、空室リスクを減らすためにリフォームしたり、入居者募集したりする際には、投下するコストと収入向上のバランスを考慮することが大切です。
管理費などのコストダウンを図ることも有効な手段です。たとえば共用部の照明をLEDに入れ替え、電気代を節約する、管理費の安い管理会社に変更する……といった方法が考えられます。ちなみに広告費等はNOIに計上できますが、リフォーム費用や共用部の設備導入費用等は含まれないため、一時的にNOI利回りが低下する可能性があることは意識しておきましょう。ただ、NOI利回りはあくまで“一年間の”収益性を評価する指標でしかありません。投資期間全体を通した収益性で考えることが重要です。たとえ一時的に利回りが悪化したとしても、長い目で見たときに資産価値の向上、収益性の改善が期待できるなら、修繕などにコストをかける判断も間違いではありません。
NOI利回りや表面利回りは投資の妥当性を判断する有効な指標ですが、数値だけで判断できるとは限らないことも理解しておきたいところです。様々なデータとあわせて検討すべきであることはもちろん、地域ごとの特性や賃貸ニーズ、物件の管理状況など、現地に足を運んで初めて分かる情報もあります。あくまで判断材料のひとつと考えましょう。