投資対象を評価するのに重要な指標「IRR(内部収益率)」とは

2022.05.19

 不動産や金融商品など、投資対象を評価する指標のひとつに「IRR」があります。「IRR」は「Internal Rate of Return」の略、日本語では「内部収益率」と呼ばれ、現在から将来までの資産価値を予測するのに重要な指標となっています。表面利回りや実質利回りとの大きな違いは、資産における時間的価値の変化を数値化していることにあります。今回はIRRとは何か、その計算方法や活用法を解説します。

今の100万円と、一年後の100万円は価値が異なる

 IRRの解説をする前に、まずはお金の時間的価値について考えてみます。投資の世界ではよく言われることですが、同じ金額でも今すぐ手にするのと、将来、手にするのでは価値が異なります。たとえば今、現金100万円を持っている場合、そのお金を利回り5%の案件に投資して、一年後に105万円になるとします。このとき、105万を現在価値に戻すときに5%の割引をする必要があります。どれだけ割り引くかは、資産のポテンシャルおよび、何年後の価値と比較するかによって異なり、その割合のことを「割引率」と呼びます。

 IRR(内部収益率)は、この時間的価値の変化を前提とし、「現在価値(実際に必要となる投資額)」と「投資によって将来的に得られるキャッシュフローの現在価値」が等しくなるときの割引率、と説明されます。単純に将来得られるキャッシュフローではなく、時間的価値の変化を考慮して、そのキャッシュフローを現在価値に置き換えた金額、とするところがポイント。この割引率が高いほど、早い段階で資本を回収できる案件と見なされます。資本を早期に回収できるということは、再投資によってさらに利益を増やすこともできるでしょう。

IRRの計算方法

 IRRを用いて、現在価値を求める換算式は以下のとおりです。

 ■現在価値とn年後の将来価値の換算式
 現在価値×(1+IRR)n=将来価値
 現在価値=将来価値÷(1+IRR)n

 割引率であるIRRを1と足し、さらに年数を累乗した数字「(1+IRR)n」で将来価値を割った数字と、現在価値が等しくなる……つまり、現在価値と将来価値さえ分かれば、IRRを算出できるということです。式だけ見ても分かりにくいので、具体的な例を当てはめて考えてみましょう。

 たとえば100万円を銀行に預け、1年後に利息が足されて105万円となると仮定します。100万円(現在価値)×(1+IRR)1=105万円となり、IRRは利息と同じ5%です。複数年にわたる投資案件では、以下のように「将来価値(n年目のキャッシュフロー)÷(1+IRR)n」を年数分、合算します。

 現在価値=1年目の将来価値÷(1+IRR)1+2年目の将来価値÷(1+IRR)2+3年目の将来価値÷(1+IRR)3……

 年数が経った将来価値(キャッシュフロー)ほど大きく割り引かれて現在価値に置き換えられることが分かります。これを具体的な金額に当てはめてみましょう。前回と同じように100万円を固定金利5%で銀行に預け(単利として計算)、毎年5万円の利息を受け取り、3年後に元金ごと引き出すと仮定します。

 100万円=5万円÷(1+IRR)1+5万円÷(1+IRR)2+105万円÷(1+IRR)3

 上記の式を計算してIRRを算出するのは大変そうに見えますが、実は簡単に解を出す方法があります。エクセルにはIRR関数があり、現在価値(元金)にマイナスを付けた数値と、各年の将来価値を入力、最後のセルに「=IRR(範囲,予測値)」を入力するだけです。※予測値は省略可能。

 

 上記の場合はIRRが5%であると示されました。つまり、単利で固定金利の場合は、何年経ってもIRRは利息と同じなのです。

 それでは、不動産投資のように毎年、キャッシュフローが変化する案件ではどうなるのでしょうか。1億円で不動産を購入し、利回り5%→10%へと推移、5年後に購入金額と同額で不動産を売却するケースA(5年目の将来価値は不動産売却価格と利息の合算)と、購入金額と将来価値の合計額を変えずに、利回りが10%→5%へと推移したケースBを比較してみます。

 

 投資額も将来価値の合計額(最終的に手にできる利益)も全く同額であるにもかかわらず、IRRはケースBの方が高いパーセンテージになっています。IRRでは「現在価値」を元に計算されるため、現在に、より近い時期に得られるキャッシュほど価値が高いと見なされるのです。このように一定の期間を全体で見て、投資資金をどれだけ効率よく運用できるのか推し量るのに、IRRはとても有効な指標と言えます。

IRRを活用するメリットとデメリット

 IRRのメリットは、キャッシュフローの変動を考慮しながら収益率を計算できる点にあります。一般的に使われる利回りでも“どれだけ収益が増えそうか”推測することはできますが、時間の概念は含まれていません。IRRは“初期投資をできるだけ素早く回収したい”“リターンで増やした資金を元に再投資し、効率良く運用したい”といった場面で、IRRはより精密に投資案件を評価することが可能です。毎年キャッシュフローが変動するような投資案件や……不動産投資などでは、ぜひ活用したい指標のひとつです。

参考記事:資産価値を高めるために。知っておきたい「表面利回り」と「実質利回り」の違い

 ただしIRRも万能ではなく、苦手分野もあります。そのひとつが長期的な投資の安定性を評価したいとき。たとえばアパートを購入する場合、新築よりも、築年数の古い中古アパートの方でIRRが高くなることがあります。新築では減価償却するのに22年かかる……毎年少しずつしか費用計上できないのに対して、築年数22年以上経ったアパートを中古で購入する場合は4年で減価償却できるため、短期間により多くの経費を計上し、初期の実質利回りを増やせるためです。

参考記事:不動産経営の3大経費! 節税効果も見込める「減価償却」とは?

 また、“一定期間の投資効率”を評価する特性から、売却を前提としない投資ではIRRを求めることができません(実際には不動産を所有し続ける場合でも、一定期間後に売却すると仮定してIRRを算出することは可能です)。数十年後に売却するといった場合も、かなり低い現在価値に換算されるため、評価は下がってしまいます。キャピタルゲインを重視する投資では有効ですが、長期的に安定した不動産収入を得たい方は、たとえIRRが低くても、新築や築浅物件に投資する方が適していると言えるでしょう。

参考記事:不労所得を得るために。知っておきたい「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」の違いとは?

 さらに、IRRはあくまで“割引率”であり、投資規模の大小、つまり金額を全く考慮していない点もウィークポイントです。実際の投資で重要になるのは割引率ではなく収益額であるため、金額を考慮する場合はNPV(正味現在価値)という指標を用います。

 NPV=1年目の将来価値÷(1+割引率)1+2年目の将来価値÷(1+割引率)2+3年目の将来価値÷(1+割引率 )3……−現在価値(投資額)

 NPVは「投資により得られるキャッシュフローを現在価値に置き換えた総額から、投資に必要な支出額を引いたもの」のこと。式をご覧いただければ分かるように計算方法はIRRと一緒で、投資額とNPVを入れ替えたのみ。将来価値を現在価値に置き換えた金額の総和から投資額を差し引いた金額がNPVであり、その金額がゼロになるよう計算した割引率こそがIRRです。投資が妥当か否かを、金額でシンプルに判断できるのがメリットと言えるでしょう。

 ただ、NPVで使われる割引率はあくまで予想値であり、想定どおりに行くとは限りません。できるだけ条件が近い過去の投資物件を参考にするなど、割引率の妥当性をどれだけ高められるかが、NPVにおける精度のカギとなります。

 IRRもNPVも、投資対象を評価する有益な指標には違いありませんが、実際の投資においては“あくまで情報のひとつ”として捉え、利回りなどとともにともに総合的に判断する必要があります。複数の投資対象候補があり、より多くの材料から比較してみたい、といった場面では有効に活用できるでしょう。

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最終更新日:2022.05.19

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