
進む不動産のオンライン契約
今、世界中のあらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。金融、証券、投資といった高度な情報を扱う分野も例外ではありません。不動産契約をオンラインで行う動きも、すでに出始めています。これまで対面で行われてきた、契約などの商慣習をオンライン化することによって、どのようなメリットが期待できるのでしょうか? 今回は、不動産オンライン契約の最新事情をお届けします。
事業者にも顧客にもメリットをもたらすオンライン化
オンライン契約は、これまで対面で行われてきた不動産や投資証券、保険証券、賃貸などにまつわる契約を、インターネット上で行う方法です。日常のあらゆる場面が、インターネットにつながっている現在。資産を取り扱う事柄など重要なやりとりには必ず契約が発生しますが、そうした場面でも対面することなく、オンラインで完結させます。
契約をオンラインで行うことは、事業者、顧客の双方に大きなメリットがあります。事業者側のメリットとしては、業務効率化による収益性の改善が挙げられるでしょう。対面する必要がないため、人件費、店舗をもつコストなどの大幅な削減が期待できます。また従来、書面で交わしていた契約書をオンラインに切り替えることで、印刷費や郵送費、印紙代などのコストも削減されます。
顧客側のメリットは言うまでもなく、利便性の向上です。自宅や会社にいながら重要な契約が交わせるようになれば顧客側のハードルは下がり、市場拡大という事業者側のメリットにもつながります。
しかし、そうしたコスト削減、利便性の向上以上に大きな効果をもたらすのが、契約情報のデータ化。いつ、誰が、どんな契約を結んだか、といった情報を一元管理することは、市場分析、経営状態の把握などに大いに役立つでしょう。顧客ごとに最適化された情報の発信も可能です。
一方で、データ漏洩などのリスクが気になるところですが、秘匿性の高い情報を取り扱うことを前提としたオンライン契約は、書面での契約よりもむしろ安全性が高いと言われています。企業のコンプライアンス強化にもつながります。
現代社会において、オンライン契約をはじめとするビジネスのDXは、もはや必然ですが、コロナ禍になったことで非対面による取引へのニーズが急速に高まりました。行政側でも、2021年5月にデジタル改革関連法を成立させ、9月にはデジタル庁を新設。オンラインでの売買取引、賃貸取引が法的に可能になり、実証実験もすでに始まっています。
マイナンバーカードを利用した個人認証技術
オンラインでの契約を実現するには、個人を特定する技術が必要不可欠です。画面越しにコミュニケーションを取るのみなので、相手が本当に対象の人物なのか、身元確認と本人認証を行う必要があります。
一般的なサイトやアプリでは、フォーマットへの入力によって身元確認を、パスワードや生体認証、電子署名等によって本人認証を行うのが通例です。しかし、こうした方法はいずれも完璧とは言えず、なりすましを完全に防ぐことができません。そのため高度な個人情報や資産を扱う契約では、これまで対面や捺印といったアナログ的な手法に頼らざるを得なかったのです。
そうした問題を打開する手段として、今注目されているのがマイナンバーカードを利用した、公的個人認証サービスです。これはマイナンバーカードを発行する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が提供する情報を、トラストアンカー(信頼できる情報源)として、民間企業が利用できるようにした仕組みのこと。行政が管理する全国共通の情報が元になっているだけに、情報の信頼性は高いといえます。この仕組みを利用したオンラインでの行政手続きも、一部の地方公共団体で始まっています。
その先進的な事例をひとつ紹介しましょう。公的個人認証サービス利用のトップランナーであるxID(クロスID)社が開発した、デジタルIDソリューション「xID(クロス・アイ・ディー)」は、ブロックチェーン技術を用いて公的個人認証サービスによる身元確認を行い、個人ごとにデジタルIDを発行するもの。サービス利用者は、マイナンバーカードを一度だけNFC機能の付いたスマホで読み取るだけで、サイトに個人情報が自動入力されます。個人情報を入力したり、身分証を撮影して送信したりする手間は一切不要。パスワードを覚えておく必要もありません。サービス提供者にとっても“表記揺れ”などに惑わされることなく、信頼性の高い情報が得られるというメリットがあります。
将来的にはオンラインでの不動産経営が可能に
シノケングループでは、いち早くデジタルIDによる公的個人認証サービスを導入し、2021年9月、オンライン契約の基盤となる「不動産のトラストDXプラットフォーム」をリリースしました。これは上述のデジタルIDアプリ(xID)を使用し、不動産売買における契約をオンラインで完結させるものです。
現在、オンラインで手続きできるのは「契約」までですが、将来的には「融資申込」「決済」「登記」に至るまで全ての行程を「トラストDX」で完結できるようにする想定です。これが実現すれば、ユーザーは自宅から一歩も出ることなく、現物不動産を取得し、不動産経営ができるようになるかもしれません。不動産取引を誰もが簡単に、安全に行える「不動産のサービス化=Real Estate as a Service (REaaS)」を推進するサービスとして期待されています。