
公的個人認証サービスの民間利用で、急速に進む不動産のDX
インターネットの世界で、ごく当たり前に行われている、身元確認と本人認証。アカウントとパスワードによるログインがそれに当たります。しかし、その方法はあまりにも不確実で信用性に乏しいものでした。今、身元確認と本人認証をより信用性高く行うために、マイナンバーカードによる公的個人認証サービスを民間で利用しよう、という流れがあります。今後、金融や不動産取引の姿も、大きく変わるかもしれません。今回は公的個人認証サービスの民間利用について解説します。
アカウントとパスワードでの認証に代わるもの
今や、インターネット上のサービスやアプリのアカウントをひとつも持っていない……という人はごく僅かでしょう。そうしたアカウントへのログインには固有のパスワードを用いる方式が一般的です。しかし、アカウントによる身元確認は完璧なものではありません。というのも、アカウントに紐付けられた個人情報は本人の入力によるもので必ずしも信用できる情報とは言えず、しかもひとりの人が複数のアカウントを作ることも容易だからです。信用できる情報とするためには、別途、住民票や運転免許証などの提示が必要になるなど、手続きが面倒になっていました。
一方でパスワードによる本人認証についても、利便性に欠けるものでした。本人しか知り得ない“記憶”という情報を元にしており、手軽であるために多用されてきましたが、本人が忘れてしまえば再発行するしか方法がなく、さらにパスワードを盗まれる危険性もあります。そのため最近のスマホ等では、顔認証や指紋認証といった生体認証が使われるようになりました。
そうした欠点があるため、行政手続きや不動産契約などの大事な場面では、身元確認と本人認証を対面など従来のアナログ的な手法に頼らざるを得ませんでした。しかし近年、不動産賃貸、売買における重要事項説明がオンライン上で可能になるなど、あらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでいます。公的個人認証サービスの民間利用についても、このような大きな流れの中で生まれたものです。
公的個人認証サービスの民間利用が可能に
公的個人認証サービスとは、政府が発行するマイナンバーカードを利用し、インターネット上で安全・確実な手続きを行えるサービスのこと。マイナンバーカードを発行する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が提供しています。これをトラストアンカー(信頼できる情報源)として民間企業が利用、ユーザー毎に電子証明書を発行できれば、身元確認の信用度が一気に上がります。実際に、そうしたサービスが既に始まっています。ただし、どの民間企業でも利用できるわけではなく、総務大臣の認定を受けた事業者でなければなりません。また指定調査期間による監査も必要です。
現在、様々な民間企業が公的個人認証サービスの利用を模索する中でも、xID(クロスID)社が始めたサービス「xID」は最も先進的な事例のひとつです。これはブロックチェーン技術を用いて公的個人認証サービスによる身元確認を行い、デジタルIDを発行するもの。パスワード不要の多要素認証ログインを可能にしたところが画期的であり、身元確認と本人認証を同時に行える、国内では現状唯一のサービスです。
このサービスでは、マイナンバーカードを一度だけNFC機能の付いたスマホで読み取るだけで、毎度のアカウント作成時に個人情報を自動入力してくれます。運転免許証など身分証撮影も不要。ユーザーにとって、個人情報を入力する手間とサービスごとに異なるパスワードを記憶する煩わしさが減り、安全性が高まるメリットは計り知れません。サービス提供者にとってもユーザーの個人情報や身分証をチェックすることなく、オンラインで信頼性の高い情報が得られるメリットがあります。実際に一部の地方公共団体ではxID社と協定を結び、オンラインによる行政手続きが始まりました。今後、こうした動きは全国の地方公共団体、金融業界、不動産業にも波及していくと思われます。
オンラインでの不動産経営を可能にする業界初のサービス
シノケングループでも、今年7月から新たにデジタルIDアプリを使用した電子契約プラットフォーム「トラストDX」のサービス提供を開始しました。これは不動産売買の電子契約において、マイナンバーカードと連携したデジタルIDアプリ(xID)を使用し、個人認証を完了させるもの。不動産業界初の取り組みとなります。
まずは「契約」手続きから運用を始め、最終的には「融資申込」までもトラストDX内で完結できるようになる予定です。さらに将来的には行政機関とも連携し、「決済」「登記」に至るまでトラストDXに繋げていくことを見越しています。これが実現すれば、物件確認から契約、登記、実際の不動産経営までワンストップで、全てオンラインでできるようになることが期待されます。不動産取引を誰もが簡単に、安全に行える「不動産のサービス化=Real Estate as a Service (REaaS)」を推進するサービスとして今、注目されています。