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国主導でルール作りが進む、不動産IDとは?

2021.09.09

 不動産業界に今、IT化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)化の波が押し寄せています。現在でも物件の売買、賃貸管理などはデータベース上に記録されるのが通例ですが、物件名、住所等の表記が不動産仲介会社によって異なり、行政機関と民間、会社間で情報の連携ができていない……という課題がありました。そのため、土地や建物ごとに固有の番号「不動産ID」を付けよう、という動きがあります。「不動産ID」とは何か? そのメリットは? この記事では「不動産ID」の現状をお伝えします。

共通言語化することでデータ連携が容易に

 ご存知のように、日本の住所表記は独特で複雑です。都道府県、市区町村、町、字、丁目、番地、号……の順番が一般的ですが、京都のように通り名を用いて住所を表記するなど独自のルールが用いられている場所もあります。さらに「○丁目○番地○号」を省略して「○-○-○」のように数字だけで表記するのも、ごく一般的。また、物件名についても、英語であったり、カタカナであったりと表記は様々です。そのため、これまではデベロッパーや不動産仲介会社などが各社独自のルールを作り、それぞれ運用していました。

 不動産業界には古くから、情報そのものが資産、という考え方が根付いており、統一的なルールを作り、広く公開することを求めてこなかった背景もあります。アナログ的な商慣習ではそれでも成立していましたが、デジタルでのデータ管理が一般的になった現在では多くの問題が露呈してきました。相互にデータを共有したり、連携したりすることができないのです。

 そこで、国土交通省は不動産物件に公的なIDを付与し、「履歴書」のように取引実績を集約するためのルール作りを2018年から始動。不動産関連ビッグデータの連係促進を図り、不動産流通市場の活性化を促すことが主な狙いです。具体的な例として、公的な不動産取引情報仲介サービスである「REINS(レインズ)」の登録物件にIDを付与し、過去の成約価格の推移やリフォーム実績などを一覧可能にする……といった取り組みが挙げられます。今年4月発表の国土交通省資料「不動産IDのルール整備について」によると、「不動産登記簿の不動産番号を用いる形で、IDに関するルール整備を行う方向で検討中」「早ければ2022年度にルール運用開始」とされています。

民間企業も不動産IDに意欲的な姿勢

 こうした国主導による不動産IDの基盤整備が少しずつ進む中、業界団体はいち早く動き出しました。大手不動産デベロッパー、不動産仲介会社、IT企業などで構成される「不動産テック協会」は地図サービス提供のスタートアップ企業「ジオロニア」と連携し、不動産IDの無料提供を今年4月から開始。この不動産IDは、「ジオロニア」が開発した地図データをもとに、全国の建物や土地に対して独自に割り振ったものとなっています。IDの取得自体は無料とし、IDから正規化された住所や物件名を取得できるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の利用を有料としている点がユニークです。

不動産業界に留まらないメリット

 全国共通の不動産IDができると、どのようなメリットが期待できるのでしょうか?すぐに思いつくのは、業務の効率化でしょう。たとえば物件を検索するとき、物件名の表記が分からなくても住所さえ分かれば建物を特定でき、正しい物件名を取得することができます。物件情報を管理しやすくなる他、宅配便業者が不動産IDを利用すれば、住所間違いによる配送トラブルが減るかもしれません。

 また物件固有のIDに修繕歴、リフォーム歴といった様々な情報を付与でき、他社と共有できることにも大きなメリットがあります。管理会社が変わっても情報を引き継ぐのが容易で、そうした情報を元に営業活動を行える可能性もあります。また災害で被災した経歴などは、保険会社にとって重要な情報源になるでしょう。ここに挙げたのはあくまで一例であり、活用できるシーンは無限に想像できます。もし不動産IDが実現すれば、不動産業界内でのデータ共有はもちろん、他業界とのデータ連携にも大いに役立てられるでしょう。

 不動産IDはこれまで閉鎖的だった不動産業界を大きく変えるかもしれません。。こうした情報収集、新しい環境への適応は不動産投資においても欠かせない視点です。シノケンは最新動向を常にリサーチし、価値をより一層高める資産づくりをサポートしています。

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最終更新日:2021.09.09

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