
社会情勢に流されないために。“もしも……”に備える「経営セーフティ共済」とは
「経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済)」というものがあるのをご存知でしょうか? 取引先の倒産などによって、連鎖的に中小企業が倒産したり、経営難に陥ったりするのを防ぐために生まれた共済制度のことです。最近では新型コロナウイルスの影響で今後、経営が厳しくなりそうな中小企業が増え、この制度が一層注目されています。
上手に使えば便利な仕組みですが、加入や貸し付けには一定の条件があります。また恩恵がある分、ちょっと注意したい点も……。ここでは経営セーフティ共済の仕組みと、メリットやデメリットを解説します。
経営セーフティ共済とは
不動産賃貸業を含めて何らかの事業を行っている限り、「取引先の倒産」というリスクに直面することは常に起こりえます。特に、大企業に比べると資金の余力が少ない中小企業や個人事業主の場合、それが経営上の大きなダメージにつながってしまうこともあるでしょう。
「経営セーフティ共済」は中小企業がそのような不測の事態に直面したとき、必要となる資金を素早く借り入れできるよう、国が運営している共済制度のことです。加入資格については業種ごとに資本金の額や従業員数が定められており、1年以上にわたって事業を継続していることが条件。中小企業だけでなく、個人事業主でも加入することができます。
毎月の掛金について
掛金は月額5,000円〜20万円の範囲で自由に設定でき、総額800万円になるまで積み立てることができます。金額の増減もできますが、減額するには一定の条件(経営状況が極端に悪化したなど)が求められます。
解約手当金について
経営セーフティ共済では契約を解約したときに、解約手当金を受け取ることができます。掛金を12カ月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40カ月以上納めていれば、掛金全額が戻ります。ただし、加入期間が12カ月未満の場合は掛け捨てとなるので注意が必要です。
経営がピンチになったときに助けてくれる頼もしい存在
経営セーフティ共済に加入すると、以下の方法で共済金の一部を借り入れることができます。相手先が倒産した場合のほか、自社の経営が悪化した際にも頼りになる仕組みと言えるでしょう。
取引先が倒産したときに無担保で借り入れできる
経営セーフティ共済に加入すると、取引先が倒産したことなどの理由で売掛金の回収が困難となった場合に、共済金の借り入れが受けられます。理由については、取引先が法的に倒産した場合だけでなく、取引停止処分や私的整理の通知を受けたり、災害などで手形が不渡りになったりした場合にも適用できます。
借り入れできる共済金の上限は、「回収困難となった売掛金、債権などの額(=被害額)」もしくは「掛金総額の10倍に相当する額」のいずれか少ない方の金額。例えば、掛金総額が上限の800万円で被害額が1億円だった場合、8,000万円までの共済金を借り入れることができます。
返済期間については借入額によって異なり、以下の通り。借り入れが承認され6カ月の据置期間を経た後、均等分割により毎月返済することになります。

共済金を借り入れても無利子ですが、借り入れ後は、共済金の借入額の10分の1に相当する額がすでに払い込んだ掛金総額から差し引かれるため、注意が必要です。金融機関などから借金した場合の利子と比べて必ずしもリーズナブルなわけではありません。ただ、無担保で借り入れられるのは大きなメリットと言えるでしょう。
自己都合でも借り入れできる
経営セーフティ共済にはもう一つ、加入者が臨時で事業資金を必要とする場合に、解約手当金の95%を上限として借り入れできる「一時貸付金」制度があります。取引先が倒産した場合に限らず、事業資金を使途であれば必要な時にいつでも借りられるのが特長。借り入れられる金額は加入期間によって異なり、下記表の通りとなっています。

たとえば解約手当金が上限の800万円に達していた場合、一時貸付金として760万円借りられることになります。返済については借り入れから1年以内の一括返済となっており、こちらは金利もかかります(平成23年4月1日以降の金利は年0.9%。金融情勢に応じて変動)。あくまで急場をしのぐための制度と考えるべきでしょう。
押さえておきたいメリット・デメリット
経営セーフティ共済に加入するメリットは、先に述べたリスク回避だけではありません。掛金を損金として算入することができるため、節税につながるのです。例えば、毎月の掛金を上限の20万円に設定していた場合には、20万円 × 12カ月=240万円までが損金計上できるということ。これは法人税額を抑える上で大きなメリットとなります。
ただし、「解約手当金を受け取った場合、全額が収益として扱われる」ことに気を付けましょう。例えば、不動産賃貸業での節税を考えた場合、毎月の掛金を損金として計上しながら、大規模修繕など大きな出費がかかるタイミングに合わせて解約手当金を受け取り、法人税率の区分が上がるのを防ぐ……といった工夫が求められます。
不動産賃貸業において注意すべきポイント
上記のように中小企業の救済システムとして優れた制度である経営セーフティ共済ですが、実は不動産賃貸業の事業者で加入を考えている場合には、注意したいポイントがあります。
1つ目は、売掛金が生じない事業は、貸し付けの対象にならないこと。この制度はあくまで売掛金の回収が見込めない場合に中小企業を救済するためのものなので、単に取引先が倒産しても被害が発生しなければ共済金を借り入れることはできません(一時貸付金を除く)。ケースバイケースなので、詳しくは中小機構にご相談ください。
2つ目の注意点は、法人の場合、上記のような節税メリットが期待できるのですが、個人事業主の場合には難しいという点です。個人事業主であっても経営セーフティ共済の掛金を「必要経費」として計上することはできます。しかし、法人のような給与や退職金が存在しないために経理上の調整が難しく、節税につながりにくいのです。税理士などの専門家に相談し、十分にシミュレーションした上で加入を検討しましょう。
綿密なリサーチでもしもの備えを
経営セーフティ共済が中小企業のリスク回避に役立つ制度なのは間違いありませんが、そこで得られる恩恵に対して、毎月支払う掛金が妥当か否か、は個々の事情によって異なります。
自身が運営する事業の経営状況やリスクによって妥当性は変わるため、綿密にリサーチし、専門家にもよく相談した上で判断しましょう。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構(最終閲覧日:2020年4月30日)