
「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ。民法改正による不動産への影響とは?
1896年(明治29年)に制定されてから約120年もの間、ほとんど改正されてこなかった民法(債権法)。その法律の一部がついに見直され、2020年(令和2年)4月1日から改正民法が施行されます。変更点はたくさんありますが、中でも「瑕疵担保責任」に関する規定の変更は、重要なポイントの一つです。
改正民法ではこれまで多くの場面で見られた「瑕疵(本来の性能や品質を有していないこと)」という言葉が使われなくなり、代わりに「契約の内容に適合しないもの」という表現に変わりました。また表現が変わっただけでなく、規定の内容も今までとは大きく異なっています。ここでは改正民法で瑕疵担保責任がどのように変わるのか。押さえておくべき変更点を解説します。
改正民法後の「瑕疵担保責任」の扱い
住宅や中古車のような他の製品に置き換えが利かない特定物の売買において、契約時に買主が気付かなかった隠れた瑕疵(十分に注意を払っていても発見できなかった不具合や損傷)が後から見つかった場合、売主は買主からの契約の解除や損害賠償に応じる責任を負う。これが従来の民法において瑕疵担保責任と呼ばれるものでした。
これが、改正民法では特定物、不特定物を区別することなく、「契約不適合責任」として債務不履行責任に一元化されます。
契約不適合責任になることで、買主がとれる手段や売主が追う責任の範囲も、一般の債務不履行時と同様に扱われます。では、従来、瑕疵担保責任として扱われたものが民法改正後はどのように扱われるのか、詳しく見ていきましょう。
要件について
瑕疵担保責任の要件には、買主が見逃してしまった善意無過失の隠れた瑕疵であることが求められました。つまり、買主が瑕疵を認識している場合は隠れた瑕疵には含まれないということです。しかし、改正後は買主がたとえ瑕疵に気付いていたとしても、契約の内容と違っていたなら売主に責任を追及できることになります。買主が契約時に十分注意を払っていたかどうか、という善意無過失の要件についても問われません。
責任の範囲について
瑕疵担保責任で売主が負うのは、「その契約が有効である」と信じたために発生した損害(支払った費用=無駄になった費用)である「信頼利益」までとされていましたが、契約不適合責任では、「履行利益」にまで拡大されます。履行利益とは、契約が履行されていれば、その利用や転売などにより発生したであろう利益のことです。
買主がとり得る手段について
瑕疵担保責任で買主がとれる請求手段は、契約の「解除」もしくは「損害賠償」しかありませんでした。それが、改正民法では通常の契約不適合と同じように解除、損害賠償に加えて「追完」「代金減額」も請求できるようになります。それぞれの請求手段はこのようになります。
契約の解除
契約内容に合致しない対象物が引き渡された際、一定の基準のもとに契約を解除することができます。契約不適合責任における瑕疵担保責任との違いは、原則として事前に債務履行の催告が必要になる点です。売主に対して債務履行の期間を指定し、その間に履行がない場合は契約を解除できます。だたし、契約不適合責任では契約目的が達成可能であっても、不履行が軽微であるときは解除することはできません。
損害賠償請求
瑕疵担保責任での損害賠償では売主の帰責事由(責められるべき理由や過失)が不要でしたが、改正民法では一般的な債務不履行と同じ扱いになるため、売主の帰責事由が必要となります。また、前述のように賠償責任の範囲についても、従来の信頼利益のみから履行利益にまで拡大されます。
追完請求
買主が売主に対して、目的物の補修や代替物・不足分の引き渡しを請求することを追完請求と言います。瑕疵担保責任において、修補などによる追完請求はできないされていましたが、改正民法では追完請求ができるようになります。ただし、買主側に故意や過失があった場合は、これができません。
代金減額請求
売主に追完を催告し、指定した期間内に履行の追完がない場合には代金減額を請求できるようになります。追完を受けられる見込みが全くない場合などには催告も不要です。こちらも追完請求同様、買主側に故意や過失があった場合には請求できません。
権利行使の期間制限について
瑕疵担保責任では、買主が瑕疵を発見してから1年以内に「具体的な瑕疵の内容」「それに基づく損害賠償請求の表明」「損害額の算定根拠」を示さなければならないとされてきました。
改正民法では、契約不適合(種類または品質)を理由とする権利行使については「買主が契約不適合を知った時から1年以内に『通知』をすればよい」と変わります。また、売主に悪意または重過失であった場合や移転した権利に関する契約不適合を理由とする権利行使には、期間制限がありません。
ただし、新築住宅については、2000年(平成12年)に施行された品確法(住宅の品質確保に関する法律)により、基本構造に関しての瑕疵担保責任を10年間負うことが義務づけられており、その点は民法改正後も変わりません。
不動産投資への影響は?
従来の瑕疵担保責任から、改正民法下の契約不適合責任への大きな変化をまとめてみました。
・特定物、不特定物の区別がなくなり、買主の善意無過失が要件ではなくなった。
・契約不適合の場合、権利行使できる期間が「1年以内に通知」すれば可能になった。
・買主がとれる請求手段が、従来の「解除」「損害賠償」だけでなく、「追完」「代金減額」も可能になった。
これら民法改正の大きな目的は、使用する用語を分かりやすいものにするとともに、現代の実態に即したルールにすることでした。契約不適合責任においては、瑕疵という分かりにくかった概念を契約不適合に整理・統合し、買主がより利用しやすい制度になります。要件や請求手段が拡大されたことは、買主にとって大幅な有利な改正内容と言えるでしょう。
契約不適合責任は売買の契約全般を規定するものであり、もちろん投資目的の賃貸アパートやマンションも、その対象。また、物件が工事完了から1年以内、かつ未入居の住宅であれば、これまで通り売主に10年間の瑕疵担保責任が義務づけられるとともに、住宅瑕疵担保履行法(※1)の対象となります。ちなみに、改正民法では瑕疵という表現はなくなりますが、住宅瑕疵担保履行法や品確法では今まで通りに使い続けられるようです。
不動産投資での契約においても決して見逃せない、今回の民法改正。契約不適合責任自体は任意規定であり、実際には個々の契約内容によって責任の範囲などが異なりますが、変更内容を押さえておくことは“時流を知る”意味でも大切でしょう。
※1 事業者が倒産した後に瑕疵が見つかった場合、買主が少ない負担で瑕疵の修補が行えるよう、事業者に対して「保険への加入」、または「保証金の供託」で資力を確保するよう義務づけた法律