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フルローンは厳しい? 不動産投資家に逆風続く|激動の融資状況

2018.09.03

 不動産投資を成功させるための鍵の一つが、金融機関からの融資でしょう。投資を始める際、必要な資金を自分に有利な条件で融資してもらうことができれば、後々の運用も楽になる可能性が高いです。

 しかし最近、金融機関は様々な要因から個人の不動産投資家向けの融資を縮小する傾向にあります。特に、これから初めて不動産投資を始めようとしている人は、これまで以上に入念な事前準備が必要となるでしょう。既に不動産を運用していて次の物件を検討している人も、今後はこれまで通りの条件では融資してもらえない可能性があります。

 一方、不動産投資市場全体でみると、低金利の後押しもあってか今まで以上に「買い時」ムードとも言えます。投資用の物件を購入したいのに、なかなか融資が受けられず歯がゆい思いをしている投資家も多いのではないでしょうか。

 逆に言えば、きちんと融資を受けることさえできれば、ライバル投資家たちの一歩先を行くことができるかもしれません。どうしたらこのチャンスを逃さず、金融機関からの信頼を獲得し、しっかりと融資してもらうことができるのでしょうか? それを知るためにも、刻々と変わる融資環境について最新の状況を知っておくことが大切です。

現役の不動産投資家も「厳しくなった」と感じる融資環境

 最近の融資環境について、現役の不動産投資家たちはどう感じているのでしょうか。それを知るために、「不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家(けんびや)」が今年の5月31日に発表した、不動産投資に関する意識調査の結果を見てみましょう。

 同サイトの会員を対象に実施された意識調査によれば、「投資用不動産は買い時だと思いますか?売り時だと思いますか?」という設問に対して「買い時」と回答している人の割合は13.9%。11.6%だった1年前の調査結果に比べて2.3ポイント上昇しています。反対に「売り時」は47.9%で昨年の54.8%から6.9%下降。「どちらとも言えない」という慎重な人も38.2%と多いとはいえ、買い時ムードになりつつあるのは間違いないようです。

 なお、買い時だと思う理由については「低金利だから」が一番多く58.9%、その次に「融資が厳しくなってきたので、今のうちが買い時だと思うから」(46.6%)が挙げられています。

 ところが、「2017年10月以降に物件を購入しましたか?」という設問に「購入した」と回答したのは36.7%。前年の42.8%から6.1ポイント減少しています。「物件を購入していない」と回答した方の理由に一番多く挙がったのは「希望する条件に合わなかった」というもので52.6%。「融資が下りなかった」も9.3%と存在感を放っています。つまり、低金利や融資状況の変化から「今のうちに買うべき」と思ってはいても、実際には希望の条件で物件を購入できない個人投資家が増えてきているのです。

 投資用物件を購入した人の77.2%が融資を利用していることからも、不動産投資における融資の重要性が分かります。

68.4%が融資を利用して購入、8.8%が融資&現金購入と回答。合計が77.2%
(出典:不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家(けんびや)『第9回不動産投資に関する意識調査 結果報告』より作成)

 さらに「金融機関の融資状況について、変化を感じることがありますか?」という設問に対して43.3%が「厳しくなった」と回答しています。この数字は前年同時期に比べると2倍以上になっていて、21.8ポイントも上昇する結果に。

金融機関の融資状況について、多くの不動産投資家が「厳しくなった」と感じている
(出典:不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家(けんびや)『第9回不動産投資に関する意識調査 結果報告』より作成)

 厳しくなったと感じる理由の上位2つは「フルローンでの融資が出にくくなった」(55.7%)、「今まで融資が通っていた属性条件(年収・金融資産)では融資がおりなくなった」(50.4%)となっています。

 こうした調査結果からも、個人投資家が置かれている状況が大きく変わりつつあることが分かるかと思います。

シェアハウス投資問題、融資環境への影響は

 では、金融機関が不動産投資家への融資を縮小しつつある状況の原因は何でしょうか? 要因は一つではありませんが、こうした動きを加速させた事件の一つには「かぼちゃの馬車」問題が挙げられるでしょう。問題が発覚してから数ヵ月経ちますが、今も度々報道で見かける、という方も多いかと思います。

 問題の発覚後、このビジネスモデルを展開していた不動産会社だけでなく、スルガ銀行の責任が問われ、調査が続いていました。その結果、同行による投資用不動産融資の手続きの半分以上に何らかの不適切な行為が入り込んでいたことが判明しました。さらに報道によると、件のシェアハウス投資向けの融資審査ではなんと約99%の案件が承認されていたことが分かったのです。

 発覚当初から同行のずさんな審査、書類の改ざん等が疑われていましたが、それを裏付けする結果となってしまいました。同行の創業家である会長は一連の経営責任を取り、辞任する意向を固めています。

 先にご紹介した調査は今年の4月に行なわれたものですが、見てきた通り、その時点で不動産投資家にとって融資状況は厳しいものでした。加えてこの一連の流れを受けて、他金融機関も不動産投資向けの融資にはますます慎重にならざるを得ないでしょう。

 スルガ銀行の不動産投資向けローンは「金利が高い代わりに審査スピードが速く通りやすい」と好まれる傾向にありましたが、アパートローンであるにも関わらず消費者金融のように本人の属性の良さを担保にして、不正な審査や過剰な融資を行なってきたことが問題となっています。スルガ銀行が囲い込んでいた顧客が他の金融機関に流れたとしても、「今度はうちが積極的に融資しよう」という顧客の奪い合いにはまずならないでしょう。むしろ、目先の利益にとらわれてスルガ銀行の二の舞にならないよう、いっそう慎重な審査を行なうようになるはずです。繰り返すようですが、特にこれからはじめて不動産投資用ローンを組もうとする人は、厳しい審査を受ける覚悟が必要となります。

 暗い話が続いてしまいましたが、先に触れた通りこの流れはチャンスでもあります。金融機関は、何も「不動産投資家には絶対にお金を貸さない」と言っているわけではありません。見通しの甘い投資家や、始める前から破綻すると分かっている投資にお金を出したくないのです。自分自身の属性の良さのみに頼らずに投資家として現実味のある事業計画を立て、複数の金融機関との取引実績があるなど、信頼性の高い不動産会社をパートナーに選んで審査に望めば、金融機関からの信頼を得ることはそう難しくないでしょう。

 不動産投資は博打ではありませんから、いざという時のための自己資金を用意しておくことも大切です。しかし、前出の調査結果を見てもほとんどの投資家がローンを組んで物件を購入していますし、組みづらくなってきたとはいえ、フルローンを組めるなら組みたいですよね。

 金融機関の信頼を勝ち取って望む条件での融資を引き出すためにも、始める前の入念な準備と、慎重なパートナー選びを心がけましょう。中には、環境激変! アパートローンはここで見極める|2018年最新版でも触れたとおり、「団信」加入時に加わる金利を省き、極端に低く見積もった見せかけの金利を提示するような不動産会社もいるため、ローンの条件もしっかりと確認する必要があります。刻一刻と変わる融資環境の変化を注意深く追い、せっかくの好機を逃さずとらえましょう。

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最終更新日:2018.09.03

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