
投資物件の「団信」って何?|不動産投資基本の「キ」
株式やFXなどのように価格が大きく変動したり、突然価値がゼロになったりするリスクが少ない不動産投資は、将来に渡る安定的な資産になりやすいと言われています。しかし空室や滞納、家賃相場の下落、改修コストなど心配事が全くないわけではありません。
その中でも大きなリスクとなり得るのがローンです。ローンは少ない自己資金で不動産投資ができる便利な仕組みですが、不動産オーナーに“万が一”のことがあった時、残された家族に重い負担がのしかかる可能性があります。そうしたリスクから家族を守ってくれるのが団体信用生命保険、通称「団信」です。
不動産投資を始めるのであれば、大切な家族を守るためにも団信の特徴、メリットや注意点についてしっかり押さえておきましょう。
団信ってなに? 家族を守る不動産投資の必須条件
団信は住宅ローンの契約者(債務者)が返済中に亡くなってしまった場合や、高度障害状態(病気やけがによって身体に重い障害を負ってしまった状態)になるなどして返済ができない状態に陥った際、銀行などの債権者に対してローンの残額を代わりに支払ってくれる保険です。ローン残額の大小に関わらず基本的には団信一つで完済できるため、契約者の家族はローンのない不動産、つまり資産が手に入ることになります。
さらに、その不動産が収益物件であれば家賃収入を得ることができるため、団信は生命保険代わりと考える人も少なくありません。実際、団信に加入後、死亡保障分の付いた生命保険を解約したり、補償が少ない代わりに保険料も安いタイプのものに切り替えたりする人も多いです。また団信は一般的な生命保険と違って保険料が加入年齢に左右されないため、生命保険料が高くなる年齢以降に不動産を購入する場合は、団信加入のメリットが大きくなるという特徴があります。

一方で団信は金融機関にとっても、不良債権を抱えるリスクを抑えられるありがたい仕組みであり、団信の加入を融資の条件にしているところがほとんどです。団信に加入すると、金融機関の住宅ローン金利から+0.2〜0.3%ほど上乗せされることが多くなっています。
また団信はマイホームだけでなく、投資用不動産の融資を受ける際にも加入できます。既にマイホーム購入時に団信に加入していても新たに加入できたり、複数物件所有したい時にも物件ごとに加入できたりといったように、柔軟性に富んだ保険なのです。ただし、団信を利用できるのは個人だけ。法人で不動産投資を行う場合や、ローンの合計が高額(金融機関によるがおおむね1億円程度)になる場合は加入できません。
主な選択肢は3つ、団信の種類
金融期間により、団信の補償内容には様々なものがありますが、次の3種類が基本と考えて良いでしょう。
1)基本の団体信用生命保険
ローン契約者が「死亡または高度障害状態」になった場合にローンの残額が完済される、基本の保険です。
2)三大疾病特約付団体信用生命保険
ローン契約者の「死亡または高度障害状態」に加えて、「三大疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞)」になった場合にローンの支払いが補填される、もしくは残額が完済される保険です。ただし診断だけで完済となることは少なく、三大疾病に加えて「所定の状態」であることが補償の条件ということが多いので、契約前に内容を確認しましょう。金利の上乗せは+0.25〜0.3%程度になります。
3)八大疾病特約付団体信用生命保険
ローン契約者の「死亡または高度障害状態」に加え、「八大疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、高血圧性疾患、肝硬変、慢性腎不全、慢性膵炎)」になった場合に、ローン支払いの補填や残額の完済が補償されます。三大疾病特約と同じく、金融機関によっては「所定の状態」の条件がかなり厳しいことが多いので、慎重に検討しましょう。金利の上乗せは+0.3%程度です。
思わぬトラブル発生?団信契約で確認しておくこと
団信は大切な家族を守るために重要な保険ですが、加入前後によく気をつけておかないと、希望していた補償が受けられないことや思わぬトラブルに見舞われることもあります。
団信、加入前に気をつけるべきポイント
住宅金融支援機構の団信では「『申込書兼告知書』の記入日現在、満15歳以上満70歳未満」の人しか加入できないなど、それぞれの金融機関が提供する団信によって加入条件が異なります。健康告知は通常の生命保険よりも少ないですが、病気やその経過によっては加入できないこともあるので注意が必要です。
団信に加入できなかった場合は、住宅金融支援機構など団信加入が融資条件でない金融機関に変える、一般の生命保険への加入で融資を受けられないか相談する、健康告知の基準が緩い分保険料が割高なワイド団信に加入する、などの方法があります。
団信は掛け捨ての保険であり、加入を前提とした場合「見た目の」金利が高くなることや、保険料はローン残高に比例するため、ローンを組んだ初期の負担がやや重くなることも頭に入れておきましょう。また、団信の保険料は生命保険控除に使うことができないので、団信加入を機に生命保険料を減らした場合は、税負担が増えるケースもあり得ます。その他、中途解約や借換不可のタイプかどうかという点も、事前に確認すべきポイントです。
団信、加入後に気をつけるべきポイント
団信の補償は、基本的に「死亡または高度障害状態」になった時にのみ受けられます。特約をつけても三大疾病や八大疾病で「所定の状態」でないと補償を受けられない、そもそも「所定の状態」の条件が厳しいことも少なくありません。補償内容以外の病気やケガで仕事ができず収入が途絶えてしまった時、家庭の収支が一気に悪化する可能性があるので、団信に加入したからと生命保険等を全て解約するのはリスクが高いと言えます。
もう一つ、トラブルになりがちなのが相続問題。特に子どもがいない方は注意してください。もし投資不動産の所有者が亡くなった場合、その配偶者と親や兄弟姉妹に不動産の相続権利が発生します。この権利を巡って親族間で争いが起こることも、残念ながら珍しくありません。大切な人の幸せのために購入した不動産が思わぬトラブルを招かないようにするには、遺言状を残しておくことが有効です。遺言状は紙とペンと判子で自作できますが、ちょっとしたミスがもとで法的に無効となってしまうことも。心配な場合は専門家と一緒に作成するのがベストでしょう。

このように、事前に押さえておきたいポイントは少なくありませんが、やはり団信への加入は不動産投資において大きなリスクヘッジになるのは間違いありません。表面的な金利の負担やデメリットに惑わされると、大きなリスクを抱えながら不動産投資をすることになってしまいかねません。団信は、大切な家族に資産と継続的な収入源を残すことができる優れた保険です。こうした仕組みを利用して気持ちを安定させておくことは、冷静な判断に基づいて投資を行なっていくためのモチベーション向上にもつながるのではないでしょうか?
団信への加入を検討する際には、家族とも話し合った上で契約内容をしっかりと確認し、遺言書も作成しておく。家族の未来も見据えた、本当の意味での資産づくりができる不動産投資にしたいですね。